<18・モクヒョウ。>

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 ライト文芸、なんて書いてある賞はやっぱりガチガチの文芸より少し柔らかいものを想定していることが多いのである。  自分が重視したいのは、繊細で重たくて細かい描写力ではなくて、すらすらさくさくスナック菓子感覚で読めるような文章なのだ。そう考えれば、おのずと“この賞はないな”と弾かれていくものは多かったのである。 「あと、文字数の問題もあって。私やっぱり、六条さんと比べると筆が遅いし。今から三か月後の公募に出すためには、下限が十二万文字の賞は厳しいだろうなあ、と。それで、同時期開催のホラーブックス大賞とか、メアリージャパン賞とかは除外することにしたといいますか」 「……まあ、あのあたりは文字数かなり稼がないといけないしな」 「それと、六条さんにアドバイス貰う以上、六条さんが審査員の賞も避けるべきだから。そういう意味で弾かれた賞もいくつかあります」 「そうだな。俺も私情を挟むつもりはないが、そうしてくれた方がありがたくはある」  六条帝、もとい桐原ミカはホラー小説家として有名だ。時々ホラー系の公募の審査員として呼ばれることもある。  実際、三か月後、四か月後くらいに締め切りが来る公募には、審査員として彼の名前があるものもあった。贔屓を疑われるようなことになっても不本意であるし、避けるのが賢明だろう。 「それと、私はまだ、自分が考えた作品を想定した文字数で書くって作業が得意じゃないから。文字数の幅が広い作品じゃないと、後で加筆したり削ったりが難しそうだって思ったのもあるし」  とんとん、と指で机を叩く藍子。 「あとは……そうだなあ。ここは、一次選考を突破すれば、評価シートを貰えて励みになるっていうのもある、かな。それに、他の公募と比べると一次突破の数が多いから、すごくモチベーションも上がるし。落ちても、自分の支えになる公募じゃないかなって。……理由は、そんなところ、です」  どうでしょうか、と上目遣いで彼の顔を見上げる。なんというか、普段はため口で話しているのに、緊張していると中途半端な敬語が出てしまうのはどうにかならないものか。帝もそんなに気にしてなさそうなのが救いではあるけれど。 「……理解した。そのへんを踏まえると、悪くない選択ではあるな。特に、評価シートを貰えるところを狙うのは賛成だ」  プリントしたのは、サイト上の募集要項が載っているページ。上部には髪の長いオバケっぽい人のイラストバナーがあって、その下にずらずらと要項が書かれている。あれは確か、以前菊書房ホラー・ミステリー大賞で受賞し、書籍化した某作品の表紙イラストであったはずだ。  ちなみにさっき理由として弾いたが、この賞はWEB上に投稿した作品であっても新作とみなして応募できる、というのも大きな魅力であったりする。
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