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賞の中には“WEBに一度でも投稿したものはアウト”とか、“他の賞に応募して落選したものはアウト”なんて厳しい条件を指定している公募もあるのだ。そういうものだと、どう転んでも新作を書き下ろすしかない。――今回藍子は新作を書くつもりではあるが、できれば旧作ホラーも一緒に応募したいという狙いがあった。一次だけでも突破できれば評価シートや選評が貰えるのだ。ならば狙わない手はないだろう。
「公募勢で心折れる人間が多いのは、自分の作品がどのレベルなのかもわからないまま落とされるから……だったりもする。わかるだろ?」
「めっちゃわかる。……一次落ちした時もそうだし。何が駄目で一次落ちしたのか、教えて欲しいってのはあるんだよね。カテエラなら別の公募に応募すれば通るかもしれないけど、自分が気付いてない致命的な弱点があるってなら直さないと他の公募にも通らないだろうし」
「そうだ。だから評価シートや選評を貰えるところはありがたい。厳しい意見ばかり言われるケースもあるが、ちゃんと褒めて面白いところを教えてくれるケースもある。いずれにせよ、少しでも人のアドバイスを聞いてステップアップしていきたい気持ちがあるなら、そういう公募は積極的に応募していった方がいい。もちろん、この菊書房の公募も、一次を落ちたら選評はもらえないから最低限そのレベルは目指さないといけないけどな」
「デスネー……」
モチベは、大事なのだ。
自分の作品には少しでも価値がある。のびしろがある。努力すればちゃんと報われる。
それがわかるだけで、人は頑張っていけるのだから。
「さて。それはそれとして……あと三か月で、最低六万文字は書かないといけないわけだ。しかも完結必須の賞だぞ、ここは」
紙を藍子に返しつつ言う帝。
「ネタくらいは決めてるんだろうな?」
「まあ、一応。因習系に近いものがいいかな、とは思ってるよ。ホラーの人気ジャンルだし。ただ、田舎の村の怖い話ーってだけだとあんまりリアリティがない気がするから……あくまで舞台は普通の町にしようと思ってるけど」
「例えば?」
「そうだなあ……。ゼミの合宿で田舎の村の宿に泊まって帰ってきた大学生たちが、そこで呪いを貰ってきちゃって次々殺されていく……とか」
これだけ聞くと、筋としてはかなりありきたりに見えるだろう。
が、王道を抑えることも大事だと知っている。長年人に愛され、親しまれてきた趣向には必ずそれ相応の理由があるのだから。
大事なのは、その王道にどのような斬新な味付けをするのか、そういうことではなかろうか。
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