<19・ボウトウ。>

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 *** 「まあ、大体こんなかんじで」  藍子は、今考えている作品の序盤をざっと説明した。 「主人公のアリサと、アリサが片思いしている男子の滝登。そのほか四人のゼミメンバーがいて、あと引率の田中由美教授ね。この七人組が夜道を歩いていたら、女の子を発見するんだよ。桜の木の下でしゃがんで泣いてるの。もう十時だから、あたりも真っ暗なのに独りぼっちで、だよ?」  関わり合いになりたくない、と思う人もいるだろう。  しかし少なくとも、アリサが好きな彼、滝登は非常に優しい性格だ。他の大学生たちも一般的な良識は持ち合わせたメンバーばかりである。泣いている小さな女の子をほっとけない、と合宿所近くの交番まで連れていってあげることにするのだ。 「しかし、交番まで迷子の女の子を連れていくと、女の子はいつの間にかいなくなっちゃってんのね。で、オマワリさんに話したら……彼はびっくりして、今すぐ全員村から出ていけ、帰らないと死ぬぞ、みたいなこと言われちゃうわけ」 「その女の子が人外だったというわけか」 「そう!……最初は、よくあるホラーの……うっかり石碑壊しちゃったとか禁域に入っちゃったとか、そういうのにしようと思ったんだけどさ。あんまり共感得られないんじゃないかなって思ったんだよね。なんか、自業自得感強すぎて……お前らが悪いことしなきゃ怪異に襲われてないのに馬鹿じゃね?みたいな雰囲気になりそう、というか」  海外のホラーだと、悪いことをした奴に悪いことが降りかかるパターンも多いと聞く。日本でもそういうものがないわけではないが、日本の場合は“大したことしてないのに呪われる祟られる殺される”が珍しくないのも特徴なのだ。  例えばかの有名な“リング”では、呪いのビデオテープを見ただけで主人公たちは一週間で死ぬ呪いを受けてしまうことになる(しかも、その呪いを回避する方法の部分を上書きで誰かに消されてしまっており、回避方法を自力で探さなければならなくなるという理不尽っぷり)。  カヤコが出てくることで有名な呪怨の場合は、呪われた家に引っ越した家族、あるいはそこになんらかの事情で踏み込んだ介護士や教師、警察などの者達が次々呪い殺されていくという話である。どっちにしても、殺されなければいけないような罪など犯していない。にも拘らず標的にされて、誰も彼もが酷い死に方をするという話になっている。  ならば、自分の書く話もとことん理不尽でいいのでは、と思ったのだ。  例えばそう、良いことをしたはずなのに呪われた――というような。
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