<19・ボウトウ。>

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「それから、夜の十時、彼等は一体どこらへんをどういう理由で歩いていたんだ?居酒屋の近くか?小さな村にそんなものが?それに……田舎の道は相当暗い。泣き声は聞こえても、女の子の姿なんてそう簡単に気づくだろうか。街灯だってない場所がたくさんあるんだぞ」 「あーあーあーあー……」  こういうところだよ!と藍子は頭を抱えた。  結構良いアイデアが出せたかと思ったのだが――どうにも詰めが甘くていけない。確かに、夜の十時に何もない道を、大学サークルメンバー全員で歩いているのも結構不自然だ。それに、自分は“桜の木の下”というイメージで少女の発見場所を考えたが。夜真っ暗な状態で、果たして彼女が佇んでいる木が何の木であるかまでわかるものだろうか? 「……うー、どうしましょう。いいアイデアだと思ったんですけど」  テーブルに突っ伏して呻く藍子。暫くの後、そうだなあ、と帝が口を開く。 「彼女のことを村の人が伝えなかったことについては……村の巡査を年配者にすること、少女の出現頻度が非常に低いこと、などで解決できるかもな。例えば、彼女が最後に出現して助けを求めてきたのが五十年前だったらどうだ?」 「あ、最近の村の若い人は、そんな話自体知らなかったり、信じてなくてもおかしくない……」 「そうだ。くだらない迷信だと思っていたら話してなくても無理はないだろう?しかし、年配者だけは信じていて、交番巡査はその年配者だったとしたら……交番で忠告してくれてもおかしくはない」 「な、なるほど」 「彼女が五十年間姿を現さなかった一因は、彼女と“母親”の関係が広まってしまい、村の人は誰も助けてくれないと悟ってしまったからとか、そういうことにしたなら……おい、メモ取っておけよ」 「は、はい!」  慌てて手帳を取り出す。さすがはホラー作家の桐原ミカ。とっさにこれだけ筋の通る設定を思いつこうとは。その思考の瞬発量は見習いたいところである。 「夜で歩いていた理由は、大学のゼミの活動内容に絡める方向でもいいかもな。夜に見える何かを研究する活動だとか、学科だとか。……そのへんはあんたが自分で考えろよ」 「ら、ラジャー!」  本当にありがたい。さくさくさくさく、とメモを取っていると、不意に帝がじっとこちらの手元を見ていることに気付く。まるで何かを考えこんでいるような。 「六条さん?どうしたの?何か気になったことでも?」  尋ねれば彼は、いや、と甘いレモンティーを一口飲んで言ったのだった。 「そういえば、訊いてなかったなと、そう思っただけだ。……あんた、どうして数あるジャンルの中でも……ホラーを選んだんだ?」
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