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<20・ワクワク。>
何でホラーを書きたいのか。
そう言われると、なかなか言語化が難しい。
「現実の世界の話が書きたいなら、恋愛でもヒューマンドラマでもいいし、現代ファンタジーもある。不思議な話が書きたいなら異世界ファンタジーやSFに行くのもいい。ホラーに興味を持つ人間は多いけど、案外自分で書こうと思う人間は多くはない……っていうのが俺の印象なんだけども」
「ああ、そうかも?」
「人気であるわりに、他のジャンルと比べると書き手がそこまで多くはないというか。少なくともライトノベルといったら、基本は恋愛か、異世界ファンタジーか、現代ファンタジーに行くものだろ?」
それは言えてる、と藍子は苦笑する。
現実世界に退屈している人、少し刺激が欲しい人。そう言う人は刺激的な恋愛とか、ファンタジーな話に行くことがほとんど。それでも自分が、ホラーなんてジャンルを選んだ理由は――。
「やっぱり」
ふむ、と顎に手を当てる藍子。
「やりたいことが全部できそうだから……かも?」
「全部?」
「はい。……うーん、その、上手く説明、できないんだけども」
一番最初にホラーに触れたのは、映画だった。
子供向けのホラー映画。夜の学校に小学生の少年少女たちが閉じ込められて、オバケに追い詰められながら脱出を目指すというものである。
正直、めちゃくちゃ、それはもう、めっちゃくちゃに怖かったのだ。うっかり絵具を忘れた少女に付き添って、子供達が校舎に絵具箱を取りに帰るシチュエーションもあり得ると思ったし、そうやってこっそり入ったら校舎が異空間になっていて出られなくなるというのも怖くてたまらなかったのである。
ようは、実際にあるかもしれない、と思えたと言うべきか。
日常の隣に、こんな恐ろしいものが潜んでいて、回避できないかもしれない。そんな想像力を働かされたことが恐ろしくて恐ろしくて、その夜は母に強請って一緒に寝てもらったほどである。
「私が初めてホラーを見たのが、小学校を舞台にした子供向け映画だった。……ファンタジーを、心から信じてる人はそんなにいないと思うんだけどさ。でも、オバケは実はいるかもしれない。見えないだけで隣に佇んでるかもしれない、そんなリアリティがあって。しかも学校っていう身近な場所が舞台なものだから、本当に自分がいつも通っている学校にそういうものがいるのかもって思ったらドキドキと恐怖が止まらなくって」
実際、ホラーもファンタジーも非現実的なことが起きるという意味では同じはずなのだ。
しかしファンタジーが、どこか現実離れしたリアリティのない空想を楽しむためのものならば、ホラーはどこか現実と切り離せないところがあるのである。
サイコパス人間は本当にいるかもしれない。
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