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読書感想文なんか嫌いだ、とその当時の担任に漏らしたという。そしたら、その先生は今までの教師たちと違うことを言ってくれたそうだ。
『わかった。じゃあ、君が本当に読みたい本を読んで、好き感想を書いてみるといい。……先生は、どんなジャンルを君が持ってきても止めない。なんなら、先生にもお父さんお母さんにも、どんな本を読んだのか言わなくてもいい。そうだな、なんなら漫画にしてもいいし、図鑑でもいいぞ』
『え!?』
そんな風に、言ってくれた大人はいなかった。それがあまりにも新鮮で驚きで。
「……その先生がいなかったら、今俺は、作家なんてやってないかもしれないな。その夏は、わくわくしながら作文を書きたい本を探した。そしたら、作文を書くためって名目で、漫画も小説もたくさん読んでる自分がいたんだ。で、気づいた。活字が辛いんじゃない、好きでもない話を押し付けられるのが嫌だっただけなんだって。好きな戦隊ヒーローの話や、ホラーのようにドキドキする話を読むのは全然辛くなかったし、読書感想文だっていくらでも書けたからなあ」
「……それ、私と同じ。自分は本が苦手だって、好きなジャンルを読んでいって言われるまで気づけなかったタイプ」
「やっぱ、そういう子供は多いんだろうな。そう考えると、押しつけがましい読書感想文のシステムは失敗してるとしか思えないわけだけど」
今の子供達はちょっと違うのだろうか。そうだといい。
二人でそう言って、くすくすと笑い合った。嫌な出来事ではあったが、今では笑って語れるくらいの思い出である。
「ホラーは、現実を輝かせてくれる。俺もそう思う。現実のすぐ傍にあるかもしれないドキドキを思い出させてくれる、想像させてくれる。そして、恐怖を通じて、人は大事なものを見つけることができる、そういうジャンルだと俺は思う。子供の頃の俺が本気で面白いと思ったジャンルの一つが、ホラーだった。その感覚は今でも忘れてない」
だから、と彼は続ける。
「あんたもその気持ち、大事にしろよ。……一本芯が通った、伝えたいものがはっきりある作品。必ずそれは、読んでる人達に伝わっていくもんなんだから」
「はい!」
自分達は、どこか似ている。なんだかそれが嬉しくて、藍子は紅茶に手を伸ばしたのだった。
似ているのが嬉しいと思うのは、単に彼が憧れの作家であるからなのか。残念ながらそこにはまだ、答えが出なかったけれど。
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