<22・コウセイ。>

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<22・コウセイ。>

 書くのに慣れてくると、プロット段階で“この話が何万文字になるか”が大体わかるようになってくるらしい。  藍子がホラー長編『ヤマビコさま』のプロットを提出すると、帝は即座に“これだと文字数が厳しい”と言い放ってきた。 「あと、構成のバランスにも不安が残る。例えば……ゼミのメンバーが、ヤマビコ様に囚われていた少女を救出し、それによって呪われてしまう。この導入にあまり文字数を割いていると、読者がそこで飽きて離脱してしまうってのはわかるよな?」 「ま、まあなんとなくは」 「つまり、文字数を割くべきは怪異が始まってからだ。……ゼミメンバーが最初の村を訪れて、それから少女を助けて東京に戻ってくる。此処までの流れは、長くても二万文字が限度、だと思う。そこに情報をぎゅっと閉じ込めないといけない。否、仮に六万文字ちょっとで収めたいなら、二万文字は長すぎるだろうな」  菊書房ホラー・ミステリー大賞の文字数下限は六万文字。仮に二万文字を導入で使ってしまうと、残るは四万文字程度となってしまう。その四万文字で怪異を引き起こし、解決まで持っていくのはなかなかしんどいことだろう。  勿論、この大賞は完結している作品でないと応募することができない。話を規定文字数できっちり完結するスキル、も必要だ。 「この作品が落選した時のことも考えるなら、できれば八万文字以上の文字数があるのが望ましい。俺個人としては六万文字で完結させるのはちょっと厳しいだろうから、八万文字完結を目指すのを勧めたいところだ」 「う……となると問題は、私が遅筆ってこと……だよね」 「ああ、もう少しさくさく書けるようにならないとな」  そんな簡単に言われましても、と藍子は天を仰ぐ。  ちなみにここは、帝の部屋だった。藍子の部屋よりも綺麗に片付いているので、作戦会議をするのには適しているのである。  彼と出会ってから、なんだかんだ二か月が過ぎた。現在、七月。菊書房ホラー・ミステリー大賞の締め切りは九月末。既に残る期間は三か月を切っている。まだプロット段階ということに、少々焦りを抱きつつあった。  自分の場合どんなに遅くても、締め切り一か月前までに書き始めないと八万文字は書き終わらない。  否、推敲や改稿の時間を考えるのであれば、九月になってから着手していたのでは遅いというもの。できれば、八月にはもう書き始めていたいところである。 「ゼミ合宿で、ヤマビコ様の怒りを買ってしまったゼミのメンバー六人と先生。東京に帰ってきてから、まずゼミメンバーのうちの一人が死ぬ。……最初に死ぬのは、物静かな性格の颯太(そうた)。この選択は悪くないと思う」  プロットを書くにあたり、ゼミのメンバー全員のプロフィールは決めてノートに書きだしてある。  主人公は、松本アリサ。大学三年生の女性で、明るく快活な性格。  相手役が都築滝登(つづきたきと)。大学三年生、クールで優しいイケメン。
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