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エレベーターのカゴが入っている通路は、通常一般人が入ることができない場所となっている。何故ならエレベーターのカゴがないと、入口の扉は開かないようにできているからだ。カゴがない状態で落下するなんてのは、なんらかのシステムエラーや故障でしかありえない。
にも拘らず、誰も入れないはずのスペースで颯太が死んでいた。しかも。
「二人がエレベーターから降りてみると……腕が、突き出してるの。エレベーターの隙間から……ぐちゃぐちゃになった誰かの手が!」
「なるほど。振り返ってそれを見て絶叫する、と」
「勿論、エレベーターの点検はちゃんとしているところだったし、警察も状況がわからなくて大混乱。颯太は自殺っていうことで処理されてしまう。でも、死体を発見したアリサやまりかはそうじゃない……」
何故なら手を見つけた時、すぐ耳元で聞いているからだ。
『わたしのむすめをさらったばつよ』
そんな、恨みのこもった女の声を。
「自分達は、ヤマビコ様に呪われてしまったかもしれない、そう恐怖するというわけ」
「流れはわかった。……ただ、この時点だと、幽霊だと確信できるほどの材料はないはずだ。ゼミのメンバーも、呪いのせいだと思っている人間と、それを信じていない人間がいるだろう。信じていない人間は怖がらない代わりに事件の解決に乗り出すこともしないし、逆に信じた人間は怖がって家に閉じこもってしまうかもしれない。信じているけれど原因の調査にも乗り出す、というのはなかなか勇気がいる選択ではある」
「うん。そのポジションは、アリサと滝登にやらせようとは思ってるんだけど……」
「それはわかる。問題はそういう勇敢な行動をとるような人物だ、というのを予め読者に示しておかないと違和感を持たれるかもしれないってことだな」
ああなるほど、と藍子は呻いた。
普通の人間ならば、そんなことあり得ないと呪いを信じないか、怯えて閉じこもったり何かに縋ろうとするだろう。寺などに頼ることはあるかもしれないが、自分で調査しようと思うかどうかは微妙だ。
「導入の部分で、いかにキャラが勇気ある性格であるのか、を示す必要がある。なら、そこらへんは丁寧に文字数さくべき、なのかな。ぐだらない範囲で」
だな、と帝が頷く。具体的にどのような描写をするか、それは藍子が自分で考えなければいけないだろう。
「ホラーは、怖がらせるシーンと、そうでないシーンの緩急が重要だ。ずっとびっくりさせるシーンばかり続けばそれはそれで読み手を慣れさせてしまうからな。一人目が死んでから二人目が死ぬまでは、少しだけ間をあける。そのあと二人目と三人目が立て続けに死ぬ、とか。とにかくペースは工夫するんだ。その上で、“緩む”シーンにはきちんと重要性を持たせる。単なる“食休み”で済ませない。……メモは?」
「メモしまっす!」
緩急をつけることで、怖がらせるシーンの威力が増大される。なるほど、それは間違いない。
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