<23・クレーム。>

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 ***  星河エミナ、への批判が高まっている。  Twitterで、大型掲示板で、YouTubeなどでも批判的なコメントや動画が投稿され、プチ炎上状態に陥っているのだ。  元々、彼女の秋山ライト文芸新人賞への受賞自体を疑問視する声はあったらしい。作品サンプルが表に公開されるタイプの賞だったからだろう。金賞に異を唱える人間はいなかったが、松平鮎子がごり押しして受賞したと噂されている銀賞や銅賞の作品に関しては批判的な意見を口にする者も少なくなかったのである。その時銀賞だったのが、星河エミナ、つまり藍子の友人だった五里えみなだったというわけだ。  もちろん、嫉妬で攻撃してくる人間も少なくない。それが作家志望の世界である。  えみなを叩いた人間の中には、実力も伴わないのに比較的若い女性作家であるえみなにムカついて攻撃するという、なんとも情けない人間たちがいたのは事実だろう。  問題は、銅賞作家への批判はどんどん落ち着いていったのに、えみなへの批判はいつまでも火が消えることがなかったということ。  理由は二つ。  銅賞作家の女性は、さっさと受賞作品を書籍化して表に出し、各段に中身が良くなっていたこと。編集からのアドバイスを聞き入れ、丁寧なブラッシュアップを重ねた受賞作に相応しい出来となっていたのが大きいのだろう。  それに対して、えみなは未だに受賞作を書籍化できていない。完全に忙しくて手が止まっているのは明らかだった。本来予定されていた刊行時期には確実に間に合わないだろうと言われている。無論、銅賞作家の手が非常に早くて、そちらがさっさとリリースできたからというのもあるのだろうが。  もう一つは、彼女が有名な電子書籍雑誌・クリオネへの連載を約束されたこと。それが、松平鮎子のプッシュによるものであるのが明白だったこと。そして、贔屓で連載開始された作品の評判が、回を重ねるごとに悪くなっていっていること――。 ――“星河エミナは、贔屓で連載を続けている。そもそも最初の受賞作でさえ人様もパクリだったのではないか”。  そんな噂が出回るようになってしまい、燃え広がっている状況。  もうえみなとは連絡を取っていないし、自業自得だという気持ちもなくはないが――正直、ざまあみろと笑ってやる気にはまったくなれなかった。  だってそうだろう。どれほど揉めたとて、自分はまだ彼女と友達に戻りたいのだから。そして、彼女がどれほど努力してきたのか、藍子は誰より傍で見てきたのだから。 「えみな……」  えみなが暮らしているマンションの前に立ち、藍子は呟く。  彼女は藍子同様、大学時代から賃貸マンションで一人暮らしをしている。  気づけば藍子は一人、彼女の家を訪れていたのだ。
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