<24・シンユウ。>

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<24・シンユウ。>

 佳奈から連絡を貰った時、少しだけ藍子も迷ったのである。  えみなのことは心配だ。例え裏切られたという意識があるとしても、少なくともこっちは友達であることに変わりはない。  きっと今、彼女は一人で苦しんでいるはず。その苦しみに寄り添ってくれる人が自分以外に一人でもいるならそれでいい。  でも、もしいなかったなら。  藍子のことを帝が支えてくれたように――創作者としての悩みを理解し、鼓舞してくれる人が誰もいなかったならば。  それはきっと、同じように作家になりたくて戦ってきた藍子にしかわからないことではないのか。 「やめておけ」  えみなの住んでいる場所は知っている。だから直接会いに行く。藍子がそう言った時、即座に帝はストップをかけてきた。 「彼女の立場で考えてみろよ。……あんたに恨まれてるであろうこと、向こうだって認識しているはずだ。過去、二人で考えたノートのアイデアやプロットを盗用したこと、裏切ったこと。お前の話を聞く限り、罪悪感がゼロでそういうことをやったとは正直思えない。あんたがずっと信じきた友達だっていうなら尚更に」 「……うん、正直めっちゃくちゃ気まずいよね」 「だろう?あんたが会いに行って向こうはどう思う?炎上してる自分をざまあみろと嗤いに来た、そらみたことかと嘲りにきた、そう思っても仕方ない。下手したら、もっと追い詰めるかもしれない、傷つけるかもしれない。あんただって、彼女のポジションだったらそう思うんじゃないか」 「……うん、そうかもしれない」  一緒に、同じ夢を追いかけてきた仲間で、ライバル。  自分の方が先に受賞して連載も持った。嫉妬されていないはずがない。実際、藍子だって彼女に嫉妬した。そうだ、ノートのアイデアを勝手に使われたことに怒ると同時に、自分は彼女の功績を嫉んでいたのだ、それは否定しようがないことである。綺麗なことだけ言うつもりは、ない。  えみなも、そんな藍子の心情なんてお見通しだろう。  そうやって先に成功した自分を自慢に思っていたかもしれない、誇らしく感じていたかもしれない。だのに、先輩作家に推して貰って連載を始めたらちっともうまくいかない。思った通りの人気が出ないし、受賞さえもごり押しで実力ではなかったのではないかと叩かれる。しまいには、どこから出たのか“ネタをパクったのでは、盗作なのでは”なんて噂まで出る始末。それらが根も葉もないものならともかく、痛いところがないわけではないえみなからすればたまったもんではないだろう。  そうやって堕ちていく自分を、自分が切って捨てたはずの友達が尋ねてくる。  きっとこの上なく屈辱で、悔しくて――それこそ、藍子の顔さえ見たくないと思っているかもしれない。でも。
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