<24・シンユウ。>

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 中学一年生。同じクラスの親友、五里えみな。彼女は一冊の大学ノートを差し出してきて、藍子に言ったのだった。 『藍子ちゃんもさ、あたしと同じで小説家志望、でしょ?だったら……今から二人で、作家になる練習しよ!』 『れ、練習?どうやって?』 『決まってる!いっぱい二人でお話書くの!』  えみなは教室の机でノートを広げて、シャープペンシルを横に添えた。そしてニコニコ笑いながら言ったのである。 『小説家になるにはどうすればいいのかって、動画で見たの。やっぱり、たくさん書いてみるのが大事なんだって。それでまず、最初は短い物語からスタートさせて……完結するのが大事なんだって』 『え、でも、小説家になるには長編を書けないとダメなんじゃないの?』 『そうなんだけど、いきなり壮大な物語を書こうとすると失敗するって言ってた。確かに、途中でエタって投げちゃったら意味ないもん……』  もし小説家になるなら、文庫本まるまる埋めるような壮大なストーリーが書けなければいけないはず。藍子はそう思っていた。  もしえみなの助言がなければいきなり長編を書こうとして、いきあたりばったりがゆえにあっさりとん挫して筆を折ってしまったかもしれない。えみなも勿論素人ゆえ知識があったわけではないが、彼女と共に相談しながら“最初は短編から始めよう”としたのは結果として大成功だったと言える。  少なくとも今の今まで、藍子は筆を折らずにいられているのだから。 『そういえば、最近は短編小説の公募とかもあるんだっけ』 『そうそう。短編の受賞をきっかけにデビューした人もいるみたいよ!』  だからさ、とえみな。 『まずは二人で力を合わせて、短い物語を書いてみない?一緒にアイデアだしやったりして、プロット書いたりして。一人では挫けちゃうかもだけど、二人なら楽しく続けられるかもしれないわ。それこそ、高校生になっても、大学生になっても、社会人になっても、あたし達はずーっと友達でいるわけだし』  高校生になっても、大学生になっても、社会人になっても。  自分達の関係は、確かに続いた。そこから先、お互いが結婚することになっても、おばあちゃんになっても、友情に変わりはないと信じていたのである。 「……今、どれほど罅が入ってしまっているとしても。彼女と過ごした時間は、本物だった」  そして。  自分に、最高の、キラキラした夢を与えてくれた。その夢のおかげで自分はたくさんの物語に出会えたし、世界が広くて美しいことも知ることができたのだ。  それから。もし作家志望でなければ――帝と親しくなることだってきっとなかったことだろう。 「今の私があるのは、えみなのおかげ。裏切りがあっても、溝ができても、壁が分厚くなっても……私にとってえみなが大事な友達であることに変わりはないよ」
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