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「──はじめまして先生。わたくし、咲乃と申します」
会ってみると、西尾咲乃は薄幸そうな雰囲気をまとった可憐な少女だった。
黒髪を三つ編みおさげに結った可愛らしい女の子だが、その顔はやけに蒼白く、なんだか生気を消耗しているかの如き様子だ。
「お父さまからお聞きになっていることと思いますが、わたくし、最近、どうにも疲れやすいんですの。他のお医者さまに行っても原因はわからずじまいで……」
咲乃はどこか気恥ずかしそうな様子で、伏し目がちに自身の体調について私に語る。
娘を傷つけたくないということで、西尾氏は〝ろくろ首〟のことを彼女自身に伝えてはおらず、私はその倦怠感が心理的要因によるものの可能性を考慮して呼ばれた、オカルトとはまるで無縁な普通の精神科医ということになっている。
「とりあえず、お嬢さまの生活環境を見させていただきます。何気ない普段の習慣の中になんらかの原因が隠されているかもしれませんからね」
私もその設定に付き合って、そんな嘘八百を言ってみたりする。
だが、そこには多少なりと真実も含まれてはいる。彼女の生活習慣の中に原因を探そうとしているのに間違いはないし、その暮らしぶり…殊に就寝時の様子を観察しようというのは本当のことだ。
実際、どこに原因があるとも限らないため、咲乃の生活ルーティーンや和洋折衷造りの大きな邸宅の構造なども調べながらそれらしい顔をして過ごし、夜が耽るのを西尾邸内で待った私は、いよいよ就寝中のお嬢さまの観察を開始した。
無論、〝ろくろ首〟のことは知らせていないし、年頃の女の子が寝ている姿を男性に見られるなど嫌がられるに決まっているだろうから、やはり彼女には秘密にして、二階にある彼女の部屋に隠しカメラを設置してのモニタリングである。
当然、西尾氏の許可をとってのことであり、彼やその奥方も私と一緒に、一階の応接間で三人、貼り付くようにしてモニターと睨めっこをしていた。
「…!? これは……」
そして、午前零時をちょうど回った頃、それは突然に始まった。
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