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布団の縁から覗く、薄ピンクのパジャマを着た彼女の胸元より湯気のようなものが溢れ出したかと思うと、それは瞬く間に上半身を覆い隠し、その白い霧の中から咲乃の頭が不意に飛び出して来たのである。
起きているのか? 眠ったままなのか? 虚ろな鈍色の瞳をした咲乃の頭部は完全に胴体から離れ、さらに空中をふわふわと浮遊しはじめる。
ただし、宙を舞う彼女の頭とベッドに横たわったままの胴体の間には、細くて長い白色の紐のようなものが長く伸びており、どうやらそれで辛うじて繋がってはいるようだ。
暗闇に俄かに発光するその質感は〝人魂〟のようでもあり、もしかしたら、いわゆる〝エクトプラズム〟と呼ばるものなのかもしれない。
だが、そのにゅるりと胴部より伸びた紐はあたかも「伸びた首」のようでもあり、首が伸びるタイプのろくろ首は、この有様を見た人間が〝首〟だと勘違いしたことに起源があるのではないだろうか?
と、そんな考察をしている内にも彼女の首はどんどん伸びて、薄暗い部屋の中を右往左往している…… 世間一般的な常識に鑑みれば信じ難き現象ではあるが、まさに西尾氏が言っていた通り、今、私の目の前で咲乃嬢は確かに〝ろくろ首〟へと変化したのである。
「本当にこれはろくろ首…いや、抜け首ですね……彼女の所へ行きましょう!」
私は西尾夫妻に声をかけると、急いで咲乃の部屋へと向かった。
早足で階段を登り、刺激を与えないよう、静かにドアを開けて彼女の部屋へと入る……。
「あれ? いないぞ?」
「咲乃、どこへ行ったの?」
だが、モニターから目を離したわずかなその隙に、浮遊していた彼女の頭はどこかへ消え失せてしまっている。
「あ! 見てください! どうやら外へ出たみたいです」
心配そうに部屋の中を見回す西尾夫妻の傍ら、胴から伸びた白い紐がカーテンの隙間へ入り込んでいるのを私の眼が捉える。
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