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「あ! 磯貝さん!」
やはりその男性に気づき、私の背後から外を覗っていた西尾氏が驚いたように口を開く。どうやら顔見知りであったらしい。
「まあ! なんて間の悪い……よりにもよってこんな時間に帰ってこなくても……」
偶然にも知人がこの場を通りかかったことに、夫人も困り顔で思わず愚痴をこぼしている。その口振りからしてご近所さんか何かだろうか?
「いました! あの塀の所です!」
一方、その間にも細い紐の先をたどっていた私は、道に面した築地塀の上に咲乃の頭があるのをようやくにして見つけていた。
塀の上に載っかったそれを道側から目にしたならば、きっと晒し首にでもされたかのように映ることであろう。
「…ん? うわあっ! な、なんだこいつ!?」
と、そんな感想を私が抱くのと同時に、ちょうどその傍にさしかかった磯貝氏が首に気づいて悲鳴をあげる。西尾夫妻の恐れていたことが現実のものとなってしまったのである。
「こ、この化け物め!」
酔っ払っているせいか? 幸い咲乃とは気づいていないらしいのだが、あろうことか磯貝氏は持っていた傘を振り上げるとそれで彼女の頭を小突こうとする。
「キャっ…!」
果たして、そんな物理攻撃が霊体に効くものかどうなのかはわからないが、傘の先が咲乃の額を小突いたその瞬間、彼女の首は短い悲鳴をあげると、まるで金属製の巻尺か昔の掃除機の電気コードかといった感じに、しゅるしゅると細い紐が高速で巻き取られ、連動して咲乃の頭も胴体のもとへと瞬時に戻ってくる……。
「痛ぁっ…!」
と、胸元から出ていた湯気も霧散して消え去り、ベッドの上の咲乃も額を抑えながら勢いよく跳ね起きた。
「き、消えた……な、なんだったんだいったい……」
他方、小突いた磯貝氏の方は狐にでも抓まれたような顔をして、だんだん怖くなってきたのか早々にこの場を立ち去ってゆく。
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