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「咲乃! 大丈夫か!?」
「目が覚めたのね! どう? 痛いところはある? どこも怪我してない?」
戻って部屋の方では心配そうな眼差しを向け、夫妻が覚醒した娘に声をかけている。
「お父さま、お母さま、どうしてここに……いいえ、それよりもすごく怖い夢を見ましたの! 庭先で磯貝さんをお見かけたしたんで挨拶をしたら、なぜだかものすごい形相をして傘で突いてくるんですのよ!」
両親の問いかけに、いまだ夢現の境目を彷徨っているらしきお嬢さまは、血の気の失せた顔をして震える声でそう答える。
なるほど……首が抜けていた時に経験したことを、どうやら夢の中の出来事だと彼女は認識しているらしい。
だが、夢と判断してはいるにせよ、抜け首時の体験を憶えているというのは、ますます以て幽体離脱に似ているといってよい。
西尾氏の見解とも一致するが、これは睡眠時に意図せず幽体離脱をしてしまう、一種の超心理学的な病なのかもしれない。
「なに、ただの夢です。私もついていますんで安心して寝てください。もし眠れないようでしたら気持ちを落ち着かせるお薬をさしあげましょう」
ともかくも、この手の病は往々にしてストレスがその原因の根幹にあったりするものだ。治療法は後々考えるとして、今は精神の安定を図ることが第一であろう。
また首が抜ける可能性もなくはなかったが、夢と認識しているところからするとレム睡眠時にだけ発症し、ノンレム睡眠までいけば起こらないことも考えられる。悪夢に怯える彼女を落ち着かせると、私はもう一度、ぐっすり眠るよう彼女を促した──。
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