ろくろ首

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 その後は朝まで何事もなく、再び目覚めた咲乃嬢は悪夢のこともすっかり忘れ、相変わらずの蒼白い顔ながらも元気を取り戻していた。  しかし、難しいのはここからだ。最初はやはり強いストレスをその原因として疑ったのだが、家庭においても学校生活においても、そうしたストレスのかかる状況を特に見出だすことはできなかった。  となると、これはもうそうした「首の抜けやすい体質」としか言いようがない。  そういえば、ポルターガイスト現象の起こる家庭のほとんどに、思春期の多感な少女が含まれているという欧米での研究結果を聞いたことがある。  もしかしたら、そうした精神的に不安定な年齢というのも〝ろくろ首〟現象に影響しているのかもしれない。  だが、いくら体質だからと言って、ああも眠る度に首が抜け出していては、世間体云々を持ち出さずとも、生活に支障をきたしてしまうことに違いはないであろう。  それにあの蒼白い生気のない顔。あれはろくろ首になる度に──つまりは幽体離脱するごとに生気を消耗しているものと思われる。  そうした健康の面からしても、やはり放置しておくというわけにはいかない。  そこで私は西尾夫妻を説得すると、すべてを咲乃に打ち明け、知り合いの霊能者が住職を務める、信頼のおける尼寺へしばらく預けることにした。  体質ということになれば、最早、意識的に幽体離脱をコントロールできるよう、彼女自身に修行してもらうしか手がないのだ。  こうして私は西尾咲乃のケースから、〝ろくろ首〟が狐狸妖怪のような存在ではなく、もしかしたら誰でも何かの拍子になりうるかもしれない、一種の超心理的な病であるという事実を学ぶこととなった。  この、世にも奇妙な首の抜けやすくなる珍妙な病を、私は〝轆轤首症候群〟とでも名付けようと思う。              (ろくろ首 了)
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