シュヴァル国 王都第二騎士団

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* * * 「……、っ」 生きてたのが奇跡だった。 傷を負ってもなお、ドラゴンゾンビを振り切り最深部を抜け出せたのは、イーリエが持つ加護のおかげだった。しかしそのせいで… 「イーリエ、ッ…」 「くそっ、防護壁を破る毒なんざ聞いたことねぇぞ!?」 ……もっと早く動けていられたなら ……聖水で剣を浄めておくべきだった ……せめて自分が庇えていたら 痛々しく横たわる身体に、服を破ることで作った包帯に巻かれた仲間を見て、悔しさを感じない者などいなかった。 アレは、生きていた頃はさぞかし名の通ったドラゴンだったのだろうが、今は動く屍でしかないはずだった。 ドラゴンゾンビには知性も感情などない。 あるのは、いまだに溶け落る腐った肉。 窪んで見えないはずの眼、生き物を嗅ぎ分けることのできない鼻、音を感知できない耳。 それでも生き物を殺す優先順位は完璧だった。邪魔なイーリエに対し、執拗なまで攻撃してきたのだ。 アデルが懸命に水魔法と治癒魔法で応急処置を施したおかげでイーリエは一命を取り留めたが…… 騎士団の中で最たる美貌の持ち主だった彼は、ドラゴンゾンビの血を浴びせられ、体のほとんどが焼け爛れるほどの重症を負ってしまった。 それから… 時間のない森を騎士達はただ進むのみだった。 二日、三日… 火炎魔法で焼き尽くすことも風魔法で木々を薙ぎ倒すことに意味はない。気力と体力の無駄遣いだ。 しかし精神は少しずつ蝕まれ、削られて行く。 「チクショウ!アイツらには人の心がねぇのかッ」 薬剤師にとっては宝の山だろう。そこにも足元にも回復薬の材料となる薬草やキノコが山ほどあるのに……そのままでは強い毒性しかなく使えないのだ。 最低最悪の悪趣味な嫌がらせだ。 「怒っても無駄です。それに……他国の騎士の死体なんて厄介で面倒でしょう。処分するにここは最適の場所です」 「ハッ、で?俺らは間抜けにも死の森に入ったって??」 「マクミランはそう仕立てたいのでしょう。死者は話せませんからね。俺はドラゴンゾンビにでもなって、アイツらに復讐を」 「ゴルディとアルタイルもそこまでだ。誰も死んでいないんだ、気だけはしっかり持ってほしい」 頭が痛くなりそうだ。 いくら諌めても自分を含め全員が殺気立っている状況は変わらず、また違うことでいざこざが起きてしまう。それでも内部分裂だけはさせてはいけない。 この状況は最悪だが、死の森は国境付近だ。 森を探索するにはイーリエのようなガイドになる人間が必須だが、奇跡的に抜け出せた人間もいる。 無事に抜け出せたなら、マクミランの土地を踏むことなく国に帰れると希望は捨てない。 (しかしマクミランは何がしたい?これはまるで……) …… パキッ 生き物のいない場所でした音. いつまでも体力と気力が続かないとき、……彼は現れた。 ----ーーーーーーーーーー-ーーー イーリエが持つ加護 精霊ウンディーネより与えられた一つの加護。 どんなに離れていてもイーリエは川の流れる場所を感知できる。 濃い瘴気に満ちた死の森には絶対に存在しない、清らかな場所だ。
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