脇役には旅をさせろ

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脇役には旅をさせろ

熟睡して迎えた翌朝だが、困ったことになったぞ…。 多分だが俺(シオウ)の存在を、ここに置いて行くか連れて行くかどうかで騎士達が揉めているんだ。 そして、それはそうだよ、と俺だって第三者の目線で考えても思う。 いくら回復薬が手持ちにあるとはいえ怪我人の仲間も多いんだ、森を抜けた騎士達は一刻も早く城に戻りたい。いつまでも俺の面倒を見てる余裕もなければ、寄り道をしている暇もないんだ。 (それに俺は城にも教会にも行きたくない…。でも土地勘のない森に置き去りにされてみろ、肉食の野生動物に襲われて死ぬ) 例えばの話。俺がか弱い女の子だったなら、それこそ騎士道精神で彼らも見捨てないかもしれないが… 俺は、誰も知らない日本語しか話せない成人男性だ。 この世界の語彙がなくて会話も出来ない・通じない、あんな危険な森にいた事の説明すらできない。 皆がいくら俺の加護(砂糖と塩)に恩を感じてくれてたってギリギリアウトのラインだ。 「あ、あの…俺さ……」 「駄目だ、シオウは―――」 "見捨てない。" 分からない言葉なのに、そう聞こえてしまうくらいに、俺を庇ってくれる真っ直ぐな声に息が詰まりそうだった。 隊長さんは”シオウは最後まで連れていく”、森でしてくれたように再び同じ判断してくれたらしい。 (…っ、隊長さん…) ダメだ… 訓練で鍛えられた貴方達と俺は違うんだ。俺は身体の作りも大きさも筋力も違う、ごくごく普通の一般市民。 苦しむイーリエさんや他のメンバーの為にも、邪魔になることだけは避けたい。 だから、 「あ、あの……待ってください、ちょっと見て欲しいんだ!」 俺は一生懸命、地面に木の枝で絵を描いた。 城と司教の被っていた帽子(王冠の特徴を知らなかった)、それは彼らに正しく伝わったが、全員が深く頷いたところで大きくバツ印を描いた。 その次に沢山の家を描いた。"城までは行きたくない。街に行きたい"、と訴えたんだ。 「シオウ」 「俺は、たぶん…」 うまく伝わらないだろうけど同行させてもらいたい理由として、俺は人の絵を描いて”コレは自分”と指を差して、上からもバツ印を描いた。 ――――王都に戻れば確実に俺は殺される…! 「お願いします、俺は町に行きたい!一番近い村でいいんだ、お願いします!」 懸命に訴えると俺が血相を変えすぎたせいで、隊長さんも深刻な面持ちで頷いてくれた。 そして何故か、静かに跪いて俺の前で頭を下げたのだ。 それはファンタジー映画でしかみたことのない、忠誠を誓う騎士のような姿で… え!?と大いに戸惑った。 「XXX、XXX――――」 「お、大げさですよ!そんな、指切りげんまんくらいでいいのに!」 ね?みんな、ね!?と見たのに、 他の人達は何故かシン…ッと一瞬時を止めてたのに、すぐ行こう行こう!と歓迎してくれたのだ。 あ、あれ??俺を置いてくかって話で揉めてたんじゃないの?? 「シオウ。行こう」 「っ、ありがと、ありがとう…!」 ま、まぁ勘違いはあるみたいだけど、無事に目的は達成できた! 今は彼らに同行が許されたことを喜ぶところだ…! (真里亜、大丈夫だ…兄ちゃんは絶対、戻るからな!) こうして調味料体質の俺は、この異世界をもう少し旅する事になった。
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