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隊長だって陰で活躍する
??サイド
簡単な仕事のはずだった。
死の森から抜け出した隣国の、それも手負の騎士共にトドメを指す。
しかも手練れ揃いと名高いシュヴァルの王都騎士だが得た情報によれば、連中を率いているのは成り上がり者の青二才で、簡単に転移魔法の発動を許したどころか、不死の王龍の逆鱗に触れての半壊状態だと。
益々うまい仕事だと、男は改めて目を細める。
転移魔法…アレは何人もの魔法使いを必要とする上に、一度使用すれば魔力の消耗も激しく、術者の回復に時間がかかる。
しかも聖女様降臨の儀に続いての今回だ。
いつもの任務に比べて高位の魔法使いが少なく、うまく他の魔法使いを出し抜き、我先にと異教徒の首を持ち帰るだけで多額の報酬が手に入る絶好の好機だった。
しかし真夜中の森で標的を見つけた三十分後
”化け物”が、本性を現した。
「はっ、はっ…、っ」
恐怖から声が出ず、浅く短い息が漏れるのみ。
(い、一体 何が起こった……?)
ピタッと、微かな身じろぎ一つで喉を切り裂ける剣先。
ぶるぶると地面に尻餅をつき悔しさに震える男を、男が十年以上も費やした攻撃魔法を一瞬でねじ伏せた敵国の騎士は、ただ静かに冷たい眼で見下ろしていた。
「……勘弁してくれないか?刺客なんて死の森を抜けてから、君で三回目だ。いい加減うんざりしてきたよ」
白銀の鎧に青き不死鳥の尾羽ー―――
目の前の異教徒はあろうことか、研鑽を積んだ魔法使いに対して、ふぅっとため息をつき言い放った。
「ふ、――――、ッ」
ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるな…っ!!!
聞いていた話とまるで違うではないか!
この異教徒、まさか能力を隠していたのか!?
(……このっ、卑怯者め!!)
男がギリっと歯を食いしばったのが魔法発動の合図だった。杖も詠唱も必要としない、この高度な魔法技術で何人もの対象を屠ってきた術式による魔法。
"――――触れたものを掻き消せ "
騎士の背後を狙った光の閃光が数発、打ち放たれた。
間違いなく、放たれたのだ…
「なぜ、だ…………、」
気づかれるはずがない死角での攻撃。
それを、あろうことかこの男は…………、錆びた剣で襲い掛かる全てを振り払った。
息一つ乱すことのない動きと、逃げる隙も与えない。再び剣先を、今度は這いつくばる魔法使いの鼻先に向けていた。
「………、」
「卑怯者とは心外だ。手負の騎士と舐めて掛かり、相手の安い挑発にキレてしまったのも敗北の原因だ」
「な、ぜだ…………、?」
………なぜだ… 状況は聞いていた、正しく把握していた。
何故、そこまでの受け流しと身の動きが取れる?
「報告では…貴様の肋骨は、既に三本折れていると……」
「それを聞いたのも、三人目だ」
我らは少数でも、実力を認められた精鋭部隊。
ー―――たったひとり、こんな男に負けるはずが――――、…。
「!!まさか……、あの… ”アレ”が… 生きて、貴様らといるのか!?」
しかし、あり得ない―――!
こ奴らよりも先に、死の森に君臨する不死の王龍の供物に贈られたはずだ。
世界にとって不要の異物。
神の啓示も祝福も受けなかったくせに、加護を得た双黒の異端児。
「はは、………まさか私一人が相手と思ってないだろう!?他の連中は貴様の仲間たちの元だ!!ここで足止めを喰らっている今、お前の仲間と奴の首は―――……」
とっくに地に落ちたと、吠える声と吠える―――”私”。
どうしてだ……
仲間が危険な目に遭っていると聞いても男は一切動揺していない…。
魔法使いはゾッとした
全てを理解した今、笑うこともできない。
目の前の騎士は何も言わないが、鎧で隠しているはずの口元がハッキリと哂って見せたのだ。
それは、もう既に済んだことだと言いたげに。
「化け物が、……っ」
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