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あんなに一緒だったので
次の町か村まで騎士達の同行を許された俺は、それはそれは立派な腰巾着になっていた。
当たり前どころか最適だ。
その何故もなにも俺には飛んでいる鳥を撃ち落とせる弓の技術がなければ、危険を察知する加護もない、使える魔法はゼロ。
さらに、
「ひ、ひぇっ…、で、デカくない!?」
道中、森の中で襲ってきたツノの生えた三メートルは超えてそうな熊が現れた時も肉食兎の群れに襲われそうになった時も、俺に出来たのはへっぴり腰になりながら避難指示に従う事。
……あとは大人しく留守番をするくらいで精一杯。
(今更だけど、この人達めちゃくちゃ強い…よな?)
剣と魔法が当たり前な世界のパワーバランスなんて知らないけど、言葉の分からない俺でも分かるんだ。きっと普段から相当厳しい訓練して備えてきたんだろうなって。
素早い状況判断と、隊長さんの的確な指示… この人達をボロボロになるまで追い込めたのって、巨大なドラゴン……とかある?
「シオウ!」
「は、はい!!ありがとうございます、丹精込めて煮込みます!!」
全員が水を得た魚のように動く中、処理と血抜きをされた肉は俺へと渡される。
まぁ相変わらずのサバイバル環境だ。俺にできるのは煮込む、焼くなんだけど、大事な食材を任せてもらえるのって大事なポジションだよね!信頼してもらえてるよ証だよね!?
今日はミンデさんが採ってきた色んなキノコもある。
「よーし、今日も頑張る……、ん??」
いつものように塩を出そうとした時、不思議と違和感のようなものがあった。
「んん???」
俺は……なんでだろう?
今まではサラサラとした塩しか出せなかったのに、これは粗塩?
なんというか"粗塩"も出せるようになった。
(……まさかのレベルアップ?)
けど、やっぱり地味なんだよなぁ~~~
肉料理においてはとても喜ばれそうだけど… これって沢山使ったから加護のレベルが上がったのかな?
粗塩……、次は岩塩なのか?それとも砂糖の方に変化が起きるのか?
「ふ、ふふ…、みんな笑ってくれるかなぁ」
いや~?この人達って褒めて伸ばすタイプみたいだから案外、子どもの成長を喜ぶ親みたいな反応をされるかもしれない。
それでも… おかしくって、偵察に行った隊長さん達が早く戻ってこないかなぁと、料理をしながら俺は待つのだ。
一昨日も昨日も今日も、ひたすら歩いて歩いて、それも闇雲な歩みじゃない兆しが見えてきた。
獣道ではない人の作った道と橋を渡り、俺達はついに大きな門を越えたんだ。
そして念願の、村だ!!
第一村人発見だ!!!
(ついに、ついにここまで…!!)
「シオウ、待つ、ここで」
「はい!」
この大人数は宿屋に収まらず、案内されたのは広い納屋だった。そこで俺はイーリエさんを含む一部の人達とお留守番になった。
あー…すごい、しっかりとした木造の建物と他の人達のいる環境だぁ。
こうしてちゃんと屋根のある建物の安心感が凄い。
「……シオウ?」
「ううん。なんでもないよ、……えっと、えぇと…」
「ゆっくりで、いいよ」
「うん、ありがとうございます…」
じっと見てしまう痛々しい火傷の肌。
イーリエさんは、もの凄く綺麗な顔をしてたんじゃないのか…?
魔法、それこそ真里亜の奇跡の魔法で治せない??回復薬じゃ傷は治せても跡は残ってしまう気がして…。
みんないい人なんだ。本当に…
俺が簡単な単語しか理解できない事にも理解を示してくれた。だからジェスチャーを交えながらの会話と、俺も理解できたら"はい"、分からなかったら"いいえ"の返事をする。
もしも身の危険を感じたら大声で、なんでもいいから叫ぶ事。(蛇とデカい蜘蛛相手にしか叫んでないけど)。
自分たちも大変なのに、俺を気遣ってくれた。
「でも、もう終わりかぁ… なんか壮大な冒険したよなぁ」
ここまで塩と砂糖で乗り切る、貴重な体験。二度としたくないけど…
生きているからこそ、奇跡を振り返ることの出来る物語だ。
(だけど俺、これからどうしよ……)
こんな言葉の拙い俺でも雇ってくれそうな仕事を、出来たら住み込みを探さなきゃ。
それとーーー… 自分の妹に会いに行くのにも問題が山積みで、尽きない悩みにため息が漏れそうになる。
はぁーー…と日本語で呟いた声は、呟きにもならないくらい小さな声だったのに
シオウの隣で寝そべる淡い青の瞳はしっかりと肩を沈めている少年の姿を写していた。
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