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不束な脇役ですが…!
察してはいたんだけど宿屋(というか納屋)は本当に寝るだけの場所で、他所に風呂屋はあるけど全員は入れないので何人かずつに分かれての入浴。それと小さな村ということで病院も飯屋もないらしく、食事は宿屋の隣にあるスペースで自炊だ。
(それでも風呂と塩と砂糖以外に調味料がある生活!!!)
さらに調理用器具は宿屋さんが貸してくれた、ありがとうございます!
パルゥと呼ばれる牛の乳にバター、チーズに薄力粉!!
もう泣いた、身体中が溢れんばかりの喜びに浸った。
そして夕飯に選んだのは妹が大好きで大好きで何度も作ったこの料理、シチューだ!
いつもよりたくさんの野菜が入ってて栄養満点だし、ロインさんに火を協力してもらってピザも作った。
(んん~~、幸せだ)
毎回だけどみんなが綺麗に平らげてくれるの、ほんと作り甲斐があっていいな!
お腹が満足したら寝る??そんなはずない、一番の楽しみがあるんだ!!
お風呂は皆んなとワイワイ入りたかったのに隊長さんの指示により俺は一番最後で、一人ぽつんだ。
え~~わざわざ隊長さんもついてくるなら一緒に入ればいいのに… あ。もしかして宿屋まで迷子になるって思われてる??俺いい大人なのにさ……
「ふぇ~~~、きもちいい~…」
ちゃぷんと染み渡るお湯だぁ… 所々痛いけど…ほんと痛過ぎて涙がでてるけど…っ
全身がヒリヒリ痛むのにどうしても風呂には浸りたかった。
俺の履いていた靴はほぼ室内用のために作られたもので、薄革の素材に中履きのクッション性もそこまで備わっちゃいない。到底山歩きには向いちゃいないし、正直履かない方が滑らない気がしたほどだ。
その靴がボロボロになるまで歩いて歩いて、足には靴擦れどころかマメができていた。他にも草で切った傷に俺がドジなせいで転んで出来た打ち身とかもある。
マメの水疱が潰れた時はヒギッ!?と、あまりの激痛に声を出しちゃったけど俺は大きな蜘蛛に驚いたことにした。
(隊長さんには即バレてめっちゃ怒られたけどさ…あの人、怒ると怖いよね)
だけどさぁ… やっぱり痛いなんて言えないよ。みんなもっと酷い傷なんだ。
俺の放っておいても出来てしまう小さな怪我や傷を気にするより、薬はイーリエさんや他のみんなに使ってもらわないと困る。
俺にできる精一杯は、弱音を吐く事じゃない。
「……やだなぁ、みんなと… もっといたいなぁ」
だけど、誰もいないところでくらいでは許して欲しい
翌朝、彼らの行動時間になっても俺は起きられなかったらしい。
毛布に包まれたまま、ゴルディさんの屈強な腕によるお姫様抱っこの中で目覚めた俺は大きな悲鳴をあげた。
「え!?なんで、まって、……もう村じゃないの!?え、ダメだ!だめだ!!」
猫が全力で飼い主の抱っこを拒否るように、娘が父親の抱っこをパパ嫌い!と精神まで抉るように
いやーー!!と必死で、必死になったよ 命懸けの猛抗議には一行も足を止めた。
「シオウ」
「………た、隊長さん!だめ、だって… だって…だって…、俺みんなのこと大好きだし、頼っちゃうもん!寂しくなって別れ時が分かんなくなるじゃんっ」
「シオウ、約束した。守ると」
「……っ、でも、」
微塵も伝わっていないコミュニケーションなのに、真っ直ぐな瞳と声に俺は死の森を抜けた日の事を思い出す。
あぁ… あれは貴方にとって誓いだったんだ。
俺を連れていくと交わした約束の中には、生半可な気持ちじゃなく俺を守るという騎士の誇りがあった。
必ず王都まで俺を守り連れて帰ると。
(なら…俺は堂々と敵の本拠地に戻って、いっそ真里亜になにがあったかを話したほうがいいのかもしれない)
どうせいつかはそうなる日が来るんだ。
ぐっと泣きそうになる、挫けそうになる。だけど俺は顔をあげて、改めてみんなを見た。
「左都志央です!不束者ですが、どうか宜しくお願いします!」
今しばらくは、何卒と頭を下げてのお願いだ。
もし命令で皆んなが俺の敵になったとしても俺は恨まないし、最悪王都についた時点で彼等から逃げ出せばいい。
だからもう少し…… 一緒にいさせてほしい。
こうしてガラガラと草原を進む騎士一行。
村で調達したニから三人がかりで引く大きな台車には食糧と野営のための道具、横たわるイーリエさんと足を怪我していた仲間が乗っている。それを皆んなで交代しながら引くのだ、俺も手伝う。
「イーリエさん、アルタイルさん、ゴルディさん!」
こうして交流が深まると人名と敬称はちゃんと覚えて、しっかり発音できるようになった。
それと一番忘れちゃいけないこの方!
「隊長のゼアロンさん」
本名はゼアロルド=ツォイキシィー。
つあいきー…ん??いつまでも正しい発音できなくて困ってたら本人からゼアロルドでいいと許可をもらえた。
でも隊長を呼び捨てには出来ない。するとイーリエさんがゼアロンと教えてくれた、愛称ってあるんだと思い即採用!
もちろん、俺はこれが"あっくん!"とか"あっちゃん"とか、それに近い愛称+敬称であることを知らなかった。(カッコよかったもので)
わざわざそれを"さん"付けしているのでかなりの不思議ちゃんになっていた俺を、全員が馬鹿にすることもなく暖かく見守っている状況がコレだ。
「シオウロゥ」
「うん??ろー?」
もしかして俺の愛称なのか!?
なぁに?と嬉しくて微笑み返せば、突然地面に膝を折るゼアロンに「えっ!?」と焦る俺。
「ぜ、ゼアロンさん!?ちょっと…!?」
「シオウロゥ、XXX、XXX」
「え?ごめん!た、助けてアルタルさん!イーリエさん!!」
みんな笑ってないでーー!!!
こんなやり取りをしながら旅は続く。
そして村から町、町から街へ…
そして、
デデーンと建つ、あ?あれ??ここ俺のいたお城じゃなくね??
いつから?まさかあのデカい門が境界線だったのか
どうやら俺は――――国境を越えてしまったらしい。
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