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脇役は借りてきた猫
シュヴァル国。
隣国マクミランが"聖なる法律の国"と呼ばれるように、シュヴァル国民らは"愛と恩義を忘れぬ国"を心情に多種多様な文化を受け入れ、市場では亜人も人間も関係なく店を持ち交流をしている。
残念ながら国民にシオウの姿を晒すことは出来ない。彼には頭からフードを被らせていたが、当の本人は…
『ーーーす、!!すごい!!ねぇ、アレはなに??アレは!?』
市場が珍しいのか。
それとも獣耳の亜人、獣人か。何もかもがシオウには興味深く珍しかったようで目をキラキラさせていた。
騎士達がシオウの外見を隠させた理由、それは国の文化と歴史の背景に【双黒の神子】の存在があった。
大昔にシュヴァル国が、濃く深い瘴気に呑まれそうになったとき一度だけ黒髪黒目の神子様が降臨されたことがある。
文献によれば前代未聞の男、当時は不吉の象徴とされていた"双黒"であることで神子様は理不尽な苦労を強いられた。
それでも神子様は果敢に瘴気と立ち向かい、その活躍によりシュヴァル国は救われ繁栄したことがハッキリと残されている。
神子様が消えた後も銅像を建て、他の聖女様たちと同様にシュヴァルは彼への敬愛も恩恵も忘れる事はなかった。
なのでいまシオウの姿を晒せば、とたん民衆に囲まれパニックに陥ってしまう。
「シオウ、こっちへ」
彼の手を優しく引き、騎士一行はようやく念願の帰城を果たした。
(シオ~はぁ、なんで自分の価値に気づいてない?あんないい子、ドワーフ族の婿にこんかねぇ)
いつもおっとりで温厚なミンデでですら何故?と不機嫌な表情をしている。
それはシオウが長年マクミランに洗脳教育を受け続けたせいだ。
聖女様を神の現し身として崇める法と魔法使い主義者の国では、塩と砂糖はただの調味料でしかない。
どんなに他国が喉から手が欲しい逸材であっても、あの国ではとんだ宝の持ち腐れだ。
さらに双黒を異教、邪教と扱っている。
(シオウ様はもしかして逃げてきた可能性があるのでは)
死の森を抜けた夜、早々に追っ手である刺客が現れたことで把握していた。
さらに裏付けたのが彼の描いた絵だった。
マクミラン教会のシンボル… そこに連れて行かれると殺されてしまうとシオウは懸命に訴えた。
もしかすると聖女が降臨されたことでシオウの処分が決まったのかもしれない。
「必ずシオウ様を守り抜き王都へとお連れしよう。もし彼が神子と認められなくとも、受けた恩は返さねば」
すべて憶測でしかないが…
それでもありのままを報告をした。
ここにいる生存者全員が憶測と分かっていて、清らかな塩と砂糖を錬成する加護の持ち主を疑っていない。そうでなくともシオウの人柄に信頼を預けている。
万が一の、シオウのスパイ疑惑は各々の心のうちに秘めて。
そしてシオウがシュヴァル王国にきて、一週間後。
「神子様のご様子は?」
「相変わらずのご様子です…」
「やはり、親しくなった騎士の方々と離されて心細いのでは?」
「しかし彼らも療養中です。イーリエ様の傷は本当に痛々しく…」
しかし、しかし…と城の中は騒がしかった。
なにせ大人しくいい子だと聞いていた少年が、中々に部屋で暴れ回っているらしい。
一体なぜ?と全員が首を傾げていた。
そして…… 城の中にある豪華な装飾を施された一室で
(………みんな、どこにいるんだよ…)
ううっ~~と、薄暗くした部屋の片隅には緊張でビクビクしている、彼らが神子様と呼ぶ少年の姿があった。
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