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ホームシックならぬナイトシック。①
””「今日はマンドフルーツが甘くてお買い得!一口どうだい!?」
「通気性のいい丈夫な布だよ!旅人さんにおすすめだ!」
「買わずとも見るのはタダだよ、ほら輝きをよく見て確かめて!」 ””
さぁさぁ!……!!と、シュヴァルの城下町は今日も活気に満ちていた。
食材から装飾品に魔法道具までが立ち並ぶ国民たちの台所には、自国だけでなくシュヴァル国が認めた他国の商人らの露店がいくつも存在している。あの店よりぜひウチの店で!と競合相手に負けじと王都限定の品を出す店もあった。
そのため遠方からこの市場でしか滅多に手に入らぬ品を求めてやってくる国民や貴族も多く、市場は端から端まで行きかう人々で賑わいを見せていた。
そして、……おっと!おっとと、人とぶつからないよう気をつけながら進む人の波。
そこには大勢の人、人、獣耳の人、…人なのか?と、深くフードを被った一人の日本人の姿があった。
(えっと、ここは…どこだ…)
この騒がしい人混みの中でシオウは一人、ポツンと頭を抱えていた。
少しだけ時間を戻そう。
騎士の帰城と共にシュヴァル国にやってきたシオウは、たいそうなもてなしを受けた。
医務室にしては広い個室で受けた丁寧な治療と、たくさん精をつけてと言わんばかりに運ばれてくる食事に何度も舌鼓を打った。
なにより驚いたのは、美術館で見たことしかない中世の王様のような初老の男性と、鮮やかなドレスを身に纏った若くて綺麗な女性が登場したことだ。
輝く黄金の冠に全身から漂う気品。まるで絵に描いたような国王とお姫様。
「ようこそ、シュヴァル国へ」
朗らかな笑顔で言われた歓迎の言葉はすぐ伝わった。
王様とお姫様は俺のたどたどしい言葉遣いを理解していたばかりか、怪我人に声をかける為だけに部屋を訪れてくれたのだ。
悪い気はしなかった。むしろ律儀すぎると思ったほどだった。
(も~~ゼアロンさん達がなにか吹き込んだな~~!?王様が直々に来るなんて思わなかったし、一体なんて紹介したんだ!?)
まだ思い出しただけで緊張から手に汗が滲む。
笑顔が引き攣りそうになっていた。いや、なってたと思う…。
俺みたいな一般人がゼアロン達(騎士)と共に帰城をしたら、そりゃあ誰だって気になるよ。きっと彼らは口裏合わせて、シオウは命の大恩人ぐらい過剰な紹介をしたに違いない。
まぁ俺の一風変わった加護のおかげで回復薬はできたんだ。だけど俺は一人じゃ森を抜けられなかった。
「困った時はお互い様です!俺は騎士の皆さんにとても助けてもらいました!」
まさか国境を越えてたとは思ってなかったけど!!とは日本語でも言えない。
けれど、まだ元気に受け答えできる気力があった。
この時点で、まさか恩人以上の存在として国に歓迎されていたのだと露ほども思っていないシオウだ。
今までは良くとも意思の疎通がとれないという致命的な弊害は、少しずつ事態を拗らせていく。
「……は?え、え!?」
開いた口が塞がらない。
毎日泥のように安心して眠り、栄養満点の食事を摂れば元気にもなる。そして次にメイドさん達に案内されたのは療養に使われていた部屋ではなく、高そうな家具とデカい天蓋付きベッド。それに絵や壺まで置かれた煌びやかな客間だった。
風呂はないがトイレは備え付けられていて、一級ホテルのスイートルーム並。中庭があるのかバルコニーからは噴水も見えている。
―――ここからが、シオウにとって苦悩のはじまりだった。
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