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脇役にだって悩みも人権もある!!
真里亜は聖女として教会、俺は城に預けられてしばらく経つけど、やはり住めば都だと思った。
調理においての焼く、炒める、煮込む過程は地球と同じだし、魔石を使うファンタジーな台所も毎日使って慣れれば感動も薄れるものだ。
ただ、衣をつけて揚げるというのは斬新だったらしい。
唐揚げと余った生地で作ってみたドーナツは妖精さんだけじゃなく、お城の使用人さん達にも人気のおやつになった。
「シオウ、ドーナツある!?」
「うん!おやつにしよっか!」
なにより得体の知れない脇役(俺)を嫌う人ばかりじゃない。
自然と厨房に顔を出す彼らが、ドーナツのお礼にと俺が住む小屋の掃除を手伝ってくれたおかげで、毎晩ベッドの上ですやすや眠れるようになった。
(このまま厨房見習いでいいから、正式に雇ってくれないかな~)
が、まぁ……問題なんて、慣れてきた頃に起きるものだ。
「…………んん゛ーーー……」
困った、困ったぞ。
いま俺の名前に現れて、膝を折っているのは白いローブを着ている教会からの使い。
一昨日、真里亜は聖女様として国民達の前でデビューを果たした。(俺は目立たないよう影からこっそり見守っていた)。
豪華なパレードだった。人々の歓声と拍手、音楽隊による生演奏に歌姫の歌。
国全体が心から待ち焦がれていた真里亜、聖女様を喝采で迎えたのだ。
『綺麗…………』
あんなに嫌いだと嘆いていた妹が、はじめて異国の服に身を包んで、この国のことを素直に褒めた。
興奮とキラキラと輝く瞳の色をみて、俺はちょっと涙が出そうになったよ。
―――と、ここまではいい。
いよいよ始まる聖女としての活動の前に――――食事の問題が立ち塞がった。お茶会に晩餐会、聖女様を歓迎するパーティでも食事には一切手をつけず、飲むのは水、食べるのは持参した弁当のみのスタンスを崩さないらしい。
「んー…まぁ印象は良くないよなぁ。会食は必須だろうし、食物アレルギーもない健康優良児なのに」
妹は本当に兄想いなだけだ。それがイメージダウンになるのは避けたいし、真里亜だって本当は食べるのが大好きで夜食も食べたい育ち盛りなのだ。
(けど、まいったな…………)
問題はもう一つ。
それは俺が妹とは違い、最初っからこの世界の人間が言ってる言葉が分かっていないことだ。そして、彼らも俺の言う言葉を理解できてない。
教会側が困ってると伝えてきた方法も絵だ。しっかも絵心がなさ過ぎて、ようやく俺に伝わるレベルの…
(まぁ俺はイレギュラーなんだもんなぁ)
これを考えるとキツいけど…
言葉が分からない・言った内容が伝わらない原因も、魔法が一切使えないのも加護がヘンなのも、
俺が選ばれた人間じゃないせいだ。
「……まぁでも、どうにかしなきゃだよな」
これを知られちゃ真里亜は黙っていない。
人攫いにあんだけ激怒してたんだ。間違いなく、今まで以上に兄を心配して、聖女活動そっちのけで俺を優先してくるだろう。
だから言葉の件は内緒にしていたし、教会の彼らも察していたからこそ、妹にわざわざ伝えなかったんだ。
「オッケー、分かった。真里亜は俺が説得するよ」
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