人攫いは調理中に

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人攫いは調理中に

アメリカにいるお父さんとお母さんへ 突然の手紙で驚いていると思います。 長男の俺、左都 志央(さと しおう)と妹の真里亜(まりあ)は今ーーーー異世界にいます。 (なんて、ありえないよなぁ) 俺と真里亜が今いる場所はテレビや遊園地でしか見たことのないザ・お城の中で、デカい窓から見える景色は中世のヨーロッパ風の街並み――― だけど、ここは遊園地ではないし、実は旅行中で古い街並みを散策している……ってわけでもない。 さぁて、誰が信じてくれる? 俺だってまだ夢の中を疑っているのに…… それは、日本の都内にあるマンションの一室で起きた。 日曜日の昼下がり。 俺のバイトは休みで真里亜も出かける用事はなかった。だから、たまには二人で何か作ろうと昼飯の準備をしてたんだ。 それが突然、床に魔法陣みたいなヘンな紋様が現れ、隣で俺の手伝いをしていた妹を無数の光る手が中へと引き摺り込もうとしたのだ。 『い、いや!やめて、はなしてっ!!お、お兄ちゃん―――!!』 『ま、真里亜!?』 やめろ、馬鹿!!俺の妹を放しやがれ!!! 俺は魔法陣に向かって怒鳴り散らかし、力一杯ぐいっと真里亜の腕を引いたが多勢に無勢。光の手の力に敵わないまま俺の体は妹諸共引きずり込まれーーー ハッと目を見開くと、そこは全然知らない身に覚えもない場所だった。 「は……?」 一体どこだ?……なんか…教会みたいな場所だけど…… まるで、RPGかファンタジー映画の中に迷い込んだみたいだった。 「な、なにが…、っ!?ここはどこ!?」 「真里亜、大丈夫だ。下がってろ」 ――――コスプレ、なのか? ズラッと俺と真里亜を取り囲むように並んでたのは純白のローブを纏った怪しい連中だ。 ざっと二十人くらいはいそうだけど…、どこのなんの教団体かも分からない。咄嗟に妹を背に隠した。 「真里亜、」 「や、やめてよ!!なに?…っ、そんなの知らない!人違いよ!」 「っ、真里亜、落ち着いて。彼らを刺激しちゃダメだ」 「でもお兄ちゃん!こいつらの言ってること頭おかしいよ!?」 「あぁ、どんな事情があっても、中学二年生の女の子を誘拐する連中が正しいわけないさ」 だから、俺の前に出なるなと頼む。 俺が冷静でいられたのは、隣に妹がいるおかげだ。もしも一人だったら真里亜と同じか、それ以上に取り乱してパニックに陥っていた。 (で、どこまで定番のお約束だ……?) ゲームで遊んだこともライトノベルも知らない真里亜が知らないのはしょうがない。 俺だって立ち読み程度で詳しいわけじゃないけど……少なくとも彼らが真里亜に向けているのは、深いお辞儀と笑顔だ。 おそらく真里亜に危害を与えるつもりはないんだと思う。 だけど、…… 「ふ、ふざけないで!!この人はあたしのお兄ちゃんだ!!それに、あたしは聖女なんかじゃない!」 ーーー…オッケー? 真里亜は聖女として召喚された。そして俺は…、連中の反応を見るに歓迎されちゃいない。その証拠に俺が視線を上げれば目を逸らすか、口元をローブで隠すような仕草をする。 巻き込まれ、オマケ、召喚失敗。 これが俺のポジションだと理解した。 「人攫いなんてありえない!お兄ちゃんだけでもいいから元の世界に戻してよ!!馬鹿!」 俺の後ろでフーッ、シャーッと猫のように毛を逆立て彼らを睨む真里亜だ。 とにかく妹の気を宥めなくては、話しが先に進まない…… だから俺は地面に両手をついて、額をこすりつけた。 「お願いします、妹を刺激しないでください」 土下座の意味が、彼らに伝わらなくたっていい。 「お、お兄ちゃん!?」 「…………状況が分からないんだ、まずは彼等に説明してもらおう」 だから落ち着いてほしい――― 地面に丸くなる俺を見て、少しだけ気を落ち着かせてくれたのかコクリと妹は頷いてくれた。
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