身長を伸ばすための神頼みで友情崩壊する受験生

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 一般には18歳で身長の伸びは止まるらしい。 「もうダメだぁ、お終いだぁ……」  休日の友人宅にて、俺は勉強机に突っ伏して嘆く。 「大丈夫だって、お前の志望大学への判定はDだけど勉強すればまだ……」  友人の言葉はナイフよりも鋭く俺の胸を貫くが、聞かなかったことにする。 「ちげーよ。大学入試の話じゃない。身長が160センチ突破しなかったことを嘆いてるんだ俺は!」  開いていたスマホの画面を友人に見せてやる。 「なになに? 成長期は18歳で終わる……お前、勉強中に何調べてんの?」 「勉強よりも大切な事ってあるだろ……そういうことさ」  友人は阿呆を見るような目を向けてきたが、俺は改まって座り直す。 「いやほら、勉強は頑張れば成績伸ばせるだろ? 身長も頑張ればある程度は伸ばせると思うけどさ、でも調べた限り今年がラストチャンスじゃん?」 「……まあ、そうかもな」  胡乱な目を向けてくる友人。  わかるぞ、勉強に戻りたいんだろうが……まあ、俺の心の叫びを聞け。 「毎日牛乳飲んだり、ぶら下がり健康器にぶら下がったり、身長伸ばし体操したり、サプリ飲んだり……早寝してんだよ。それなのに158センチって……ひどくない?」 「お前そんな努力をしてたんだな……その努力をもう少し勉強に向けようと思わないのか? もう受験生だぞ俺達」  興味なさげにふっと息を吐く友人はもうお勉強に戻るつもりだ。  させるか!!  「頼む友よ! 身長を伸ばす方法を教えてくれ! もう方法がないのはわかってる! でも一ミリの可能性が欲しいんだ!! そうじゃないと俺は受験勉強に身が入らない!」  がばっと友人の腰に抱きつく。 「ええいうっとおしい! そんなに身長伸ばしたきゃ神頼みでもしてみればいいだろ!!」  友人はぺぺぺと、俺のスマホを操作して、『お百度参り』と『近くの神社』の記事を出してくれた。 「ほらよ! あとは自分で調べな」 「心の友よ! ……ふむふむ、なるほどなーるほど。じゃあ、俺お百度参りするから今日は帰るわ!」  荷物をまとめ、ルンルンで友人の部屋を後にする俺の背中にぼそりと声が。 「落ちたな……」 「受験生になんてこと言うんだお前!」  と、いうやりとりが行われたのが春学期。  セミの鳴く参道を軽やかに走り抜けるとすぐに境内の本殿が見えてくる。  お賽銭箱に10円玉を投げ入れ、鈴の緒を引いてガランガランと鈴を鳴らし、二礼二拍手。 「身長がのびますよーに……」  しばらく祈ってから一礼し、本殿から離れる。  いつもは陽ざしがきつくない時間帯にお参りするけど、今日は寝坊した。  受験生でも新作ゲームはしたいのだからしょうがない。  夏休みだものしょうがない。  木陰の長椅子に腰掛けてしばらく休憩タイム。 「…………」  いや、わかっている。  もうお百度参りはとっくに済んでいるはずだ。  多分百数度参りになってる。  けど、昨日身長を測った時は157センチほどだった。  ……おかしいじゃん。お百度参り始める前より1センチ失ってるやん。  しゃわしゃわしゃわしゃわしゃわ……とセミの鳴き声が妙に耳に響いた。 「……まあ、そういう事もある。それよりお百度参り続けてなんか体力付いたし、早起きできるようになったし、俺は人間として成長した気がする」  言葉にすると胸の中でもやもやしていた何かが晴れていく気がした。  そうだ。  身長がなんだ。  大学生になるのに必要なのは身長じゃない。  俺はお百度参りを続けることができたじゃないか。  必要なのはそういう何かをやり続ける努力という名の――。 「あれ、信夫じゃないか。久しぶりだな」  その声に振り向くと友人がいた。 「隼人! 久しぶりだな!」 「おう、お前勉強してるか?」 「お百度参りならちゃんとしてるぞ……」 「目を反らすな」  大丈夫か?という視線が痛い。 「そ、そんなことよりどうしてこんなところへ?」  ウィークポイントを攻撃され続けるのは非常によろしくないので話題転換。 「俺か? 俺もお百度参りだよ」 「お前も? なんだよやってたなら一声かけてくれればいいのに……」  友人は悪気なさそうに笑った。 「悪い悪い。で、どうよ効果のほどは? もう100回お参りしたのか?」  尋ねられて俺は本殿を遠い目で見つめる。 「まあやっぱり神頼みだしな。身長は結局伸びなかったよ」 「そうかダメだったかぁ……」  友人が気の毒そうにつぶやく。 「いいんだ。俺は与えられたものでやってくのさ」  俺は肩をすくめる。  こうすることで大人になった感をアピールできる気がする。 「へー、お前にしちゃ随分と物わかりがいいって言うか……成長したな」  俺は見えないように片手でガッツポーズしてから、尋ねた。 「ところで隼人、お前は何を願ったんだ?」 「俺? お前に言っといてアレだけど、俺も身長もう少し伸ばしたくて」  …………。 「そうだよな、お前も俺と同じで低めだもんな身長。大学生になるからにはもう少し欲しいよな」  は? こいつ何言ってるんだ? あるじゃん。165センチくらいあんじゃん……。  腹の底で何かが沸き上がるような感じがしたが、飲み込んで、「どうだった?」と続ける。  すると、友人は少しはにかんだ。 「うん、俺は3センチくらい伸びたよ。まだ100日お参りしてないけどな」  サン、センチ?? 「……………」  俺は固まる。  青空に入道雲っぽいのが見える。 「なんか、すまん……」  俺は咳ばらいをする。  いかん、笑顔だ。笑顔……。 「いや、いいって、気にすんなよ。俺はお百度参りで大人になったからさ。そんなみみっちいことで腹なんか立てないぜ」  そう言うと、友人はどこか安堵の表情を浮かべて立ち上がった。  入道雲が似合う男になりやがって。 「ならよかったよ。ところで信夫、友人としてお前の受験勉強が心配だ。よければこの後俺ん家で勉強したほうが――」 「腹は立ててないけど、俺の傍に近寄るなぁ!!」  サンセンチ、ユルサナイ。 「……大人になったんじゃなかったのか?」 「俺はまだ高3だ! 168センチ野郎!! 羨ましいんだよぉおおお!!」  瞳からにじむ悔しさをぬぐいながら、俺は神社を後にするのだった。
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