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紫の目の依頼
待合室代わりの四畳半の和室の中。壁際の花瓶に生けたツユクサの青い花が、さよさよと風に揺れている。
「どうぞ……ええと、レイヴ、さん」
「頂戴いたします」
なんて美しい声だろう。香苗は自分の声を、どうしても恥ずかしく思ってしまった。
美しい紫色の虹彩。銀色の髪。細い手足に、恐ろしいほど整った顔立ち。
突如として尋ねてきた美貌の青年相手に、仙崎香苗はおどおどとした様子を隠せないまま、対応していた。
「あ、あの。レイヴさん。ええと、今日はどのようなご用件で、この神社へおいでになったのでしょうか?」
香苗の家は先祖代々、神主の家系だ。神主として働く父と、巫女専業の母の間に香苗は生まれた。
普段から神社の手伝いはしているが、祝詞などにちゃんとした知識があるわけでもない。
特に春先のこの時期は新居を建てるだのなんだので、父も母も忙しく働いている。運が悪いことに、今この家にいるのは、香苗しかいなかった。
どう見ても外国人という風貌の青年が、一体全体何を求めているのか。香苗は不安を表情から隠せず、冷たくなる指先を感じていた。
茶を一口飲んだレイヴが、静かに香苗に話し始める。
「本来は私はあと数日で命を落とします。ですが、どうしても、どうしても、成し遂げたいことがあるのです。どうか、私の延命を祈っていただけませんか」
「延命を、ですか……」
重い依頼だな、と香苗は思った。
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