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(一人であたふたして……私こそ恥ずかしい)
結局暴走した。心の中のチベットスナギツネに「しっかりしろぃ」と叱られた気がした。
谷村先生の案で正解だった。まずは静かに見守るべきだったんだ。
「ほんと未熟だな、私……」
「なんで落ち込んでんだよ、海琴先生」
肩を落とす私の真横に、いつの間にか健奏くんが立っていた。気まずさで顔を見られない。
「いや……知らなかったとはいえ、コーチの先生に強い物言いしちゃったし、騒ぎも起こしちゃったし。ごめんね、健奏くん」
「謝んなよー。どー考えてもコーチが悪いって。坊主にしろとか時代サクゴだっつーの」
健奏くんが、やれやれ、といった調子で腕組みをする。
「海琴先生は先生になったばかりなんだから、ミジュクなのはしょーがねーって。それにミジュクってのびしろがあるってことじゃん。元気出せって。それにさ」
「それに……?」
「さっきの、けっこー嬉しかったよ。健奏くんは健奏くんですってやつ」
にへっと笑う健奏くん。
十歳児になぐさめられてしまった。
でも、その優しい言葉と小生意気な態度に、ちょっと笑ってしまった。
よかった。
この子がしんどい気持ちを抱えていなくて。
「そういえば、健奏くん」
「ん?」
「さっきの、私に相談って何だったの?」
健奏くんは腕組みをほどき、声をひそませた。
「あのさ、……ヘアケア方法、教えてほしい」
「へあっ?」
「海琴先生、髪きれいじゃん。どうやってんのかなーって」
ああ、それでさっき、私の髪を見ていたのか……。
予想外のそのまた外みたいな質問だ。
まさか男子児童にヘアケア方法を教えてと言われるとは。講義や研修だけじゃ分からないもんだなぁ。
そばで見守っていたお母さんが、カラカラと笑った。
「私が教えようとしても『ほっとけ』って言うんですよこの子。もー恥ずかしがり方が意味不明!」
「うるせーよ!」
健奏くんがお母さんの脇腹をパンチする。
私も笑って、まずは使っているシャンプーの名前を教えた。洗髪やブラッシングのやり方も。
ロングヘア志望の男の子は、算数の授業よりも興味深そうだった。
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