にょきにょき夢は伸びるよ どこまでも

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 知らない人に種をもらった。見た目は正直種っぽくない。片手で握るのにちょうど良い大きさの真ん丸。突っ込みどころは色。虹色グラデーション。  「どう見ても種に見えないんですけど?」  渡してきた人はにこにこ笑うだけ。前髪ぱっつんとした色白の背の高い男の人。知らない人から物をもらっちゃいけないというのは小学生から言われる注意なのだけど。うっかり受け取って突き返すのはどうなのか。高校生にもなって悩むとは思わなかった。  「あ」  少し悩んでいる内にその男の人は消えていた。右手には相変わらず謎の真ん丸い種と呼ばれたものがある。そこら辺に投げたらダメだろうか。そんなことを考えていたら種が物言いたげな気がする。  「えぇぇぇぇ……なんか捨てるなって言っている気がする」  なぜだろう。捨てたら呪われそうな気までしてくる。さんざん悩んで家に持ち帰ることにした。両親はともかく、姉に相談しようと決めて。短大生の姉はちょっと不思議な人だ。  「ただい、ま」  声が途切れたのはその姉が玄関開けてすぐの所に立っていたからだ。さらさらとした肩までの髪をさらりと揺らしてにこりと「おかえり」と返して制服のポケットの方へ目を注ぐ。  「何連れてきたの?」  ……こういう姉である。神妙にポケットから例の種を取り出した。姉は切れ長の目を少し見開き、ちょいちょいと手招いた。居間には両親がいるのではと質問を口にする前に姉は一言。  「2人ともお出かけ中。早く」  「あ、はい」  視線に促されるままソファに座り、姉が一人分空けて隣に座る。そして、種をじっと見つめる。ふぅとため息。  「タイガは何の種だと思う? 正確にはどんな種だと思う?」  「どんな……」  おとなしく考えてみる。こういう時の姉には逆らってはいけない。  「ふつーの種ではないと思う」  「そうね」  「色からイメージすると虹だけど、何故か虹の種って感じはしないんだ」  「そう。それで?」  タイガはじっと種を観察する。集中してみると色が変わるように見える。まるでなんにでもなりそうな……。  「植える人によって変わる種」  姉は愉しそうに笑った。  「タイガならどんな子にするんだろうね。さて、私は課題をやってくるよ」  「え、これは!?」  「裏庭に植えといたら」  慌てるタイガを尻目にあっさりと姉は自室に帰って行った。
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