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再び、タイガは種と見つめ合うことになった。両親が帰る前に植えてしまった方が良いだろうが植えるのが少し怖い。考えながら1度外に出て家の裏へ。庭とは名ばかりの土が大半の空間だ。当分裏庭に手を出す予定はないからと大体真ん中に種を埋めてみる。
「……戦争から命を守ってくれる植物、なんてね」
飛んでくる攻撃は食べちゃって、物資が届かないところに食べられる野菜とか果物を実らせたり、防寒になりそうな綿毛がフワフワできたり……予想外にメルヘンな想像が浮かんでしまいタイガは苦笑した。摩訶不思議にも程がある。
「無理だよなー」
でも、考えてしまった。最近暗いニュースが多いから想像でくらい希望があってもいいじゃないか。種を植えた地面を見る。
「どんな植物か知らないけれど、大きくなれよー」
…………にょき。にょきにょき。
「え」
目の前で双葉が飛び出し、どんどん成長を始めた。タイガはぽかんと口を開けてそれを見つめるしかできない。
にょきにょきにょき。一部は地面を這うように葉っぱを広げていき、一部は大樹のように上へ上へ。屋根よりも高く伸びてたんぽぽのような大きな綿毛がふわりふわり。
その日の夜からのニュースは大騒ぎ。
巨大な綿毛が世界中に舞って、戦乱の地、貧困地区で一斉に芽吹いてにょきにょき。ミサイルを簡単に飲み込める大きさまで育ってぱくんと口を開ける謎植物。空中だけかと思いきや戦車を丸吞み、乗っていた人間はぷっっと吐き出した。貧困地区の地面に伸び育ったところからは大きめのカボチャにじゃがいも、豆、茄子などなど、分かれて伸びた木からは多種多様の果物が実り、水を貯める大きな色とりどりの花がゆらゆら。花びらを引っ張るとざばーっと大量の水が流れ落ちる。
「嘘だろ……」
この大元が今、家の裏庭にいる。大丈夫だろうか。画面が切り替わり興奮した様子のニュースキャスターが撮った映像を流しながらしゃべる。
「ご覧ください! 日本国内のありとあらゆる場所に巨大な綿毛が伸びています! 世界中で大騒ぎになっているのと同種と思われますが、戦争のない日本では綿毛までなのでしょうか⁉ いずれにせよ何が起きたのか、まだ何もわからないままです!」
地上波も、ネット上も突如地球に現れた謎過ぎる植物で大騒ぎだ。植えた張本人としてはバレたらどうしようと気が気でないが、日を追うごとに植物に助けられたと笑う人、実った果物や野菜で食事を摂れるようになって喜んでいる人のニュースが増えた。それは、うれしいことだ。
「あれ、神さまだったのかなぁ?」
にょきにょき。人々を助ける植物があちらこちらで育っていく。きっと、平和になるまで増え続けるのだろう。
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