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金色の彼女 11
「……おばあちゃん!」
勢いよく居間に入室した私の足音に、横になっていたおばあちゃんが驚いたように体をビクリと動かす。そうしてゆっくりと起き上がると、私に向かって弱々しく問いかけた。
「美香ちゃん、どうしたの。なにか、あったの?」
「おばあちゃん、これ。これを、見て」
心臓の激しい鼓動を感じながら、私は右手を前に出した。
意図がわからなかったのだろう、怪訝そうな顔をするおばあちゃんに、私は光をさらに近づけて言う。
「私ね、作ったの。前におばあちゃんに教えてもらった、これを。優しい人から作る、金色のこれを。一生懸命、作ったんだよ。おばあちゃんに、元気になってほしくて」
「……美香ちゃん、あなた」おばあちゃんの目が大きく見開かれる。物体の光が、私たちふたりを金色に照らし出している。その光景を、私はきれいだと感じた。美しいと思った。
「食べてみて」自信を胸に、私は物体を勧める。
私の顔と手のひらを交互に見た後、おばあちゃんは金色の物体を受け取り、まじまじと眺めた。そして、口へと運んだ。
物体はお餅のように長く柔らかく伸び、おばあちゃんの右手と口との間に、金色の橋をかける。それを左手で食べやすくちぎった後、おばあちゃんは口のなかに全部入れて、咀嚼した。金色の物体。藤野香織だった「もの」。私は緊張しながら、その様子を見守った。
時間をかけて噛みしめた後、おばあちゃんが物体を飲みこんだ。深くつかれる息。私に向けられる視線。
そうして微笑んだおばあちゃんに、私は胸が高鳴るのを感じた。
「美香ちゃん、ありがとう」おばあちゃんが、私の手を握る。力強い握手。爛々とする瞳。私は、心の底から嬉しくなる。
「これは、すごいねえ。一気に元気が湧いてくるようだよ。昔の自分に、戻ったみたいだ」
「おばあちゃん……!」
「ありがとう、本当に自慢の孫だね。これは、どうやって作ったんだい? 素材はどうしたの?」
「ああ、それはね……」
私は話しはじめる。藤野香織のことを。優しかった、友だちだった人のことを。
また、ふたりで楽しく暮らせそうだった。
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