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金色の彼女 3
私が話さなければ、藤野香織はそうした、ある意味で血なまぐさい話題に自分から触れることはないのだろう。そのような話に、興味のある子ではなかった。普通の女子なら、まあそうなのだろうけど。
しかしそれでも、藤野香織は私のおしゃべりを最後まで遮らずに聞いてくれる。大体が、そうだった。それが彼女の優しさであり、また気弱さでもあった。私たちの友人関係は、そうした彼女の臆病な優しさによって、成り立っているのだといえた。
「そういえば、香織さ、」私は唐突に話題を変える。
「ん? なに?」まっすぐに私を見る彼女。空はまだ青さを保っているけれど、空気には夕方の気配が表れはじめている。藤野香織の純真な瞳を見返しながら、私は言う。
「今日の掃除当番、北野さんに押しつけられてたでしょ。香織の当番、今日じゃなかったよね?」
「……う、うん」
私の言葉に、藤野香織は上目遣いでこちらを試すように見つめてきた。私の態度を窺うような、ふたたびの視線。
北野さんは、クラス内における目立つ女子グループの中心だった。悪い子ではないと思うのだけど、自分のグループ外の女子をどこか軽視する傾向があり、大人しい女子はその対象として選ばれることが多かった。私は北野さんの標的になることはなかったものの、もの静かな藤野香織は、北野さんからすれば格好の相手といえた。
「香織は、よかったの? 掃除当番を変えられて」
思いやりをあえて意識し、そう尋ねる。藤野香織は、照れたように答えた。
「う、うん。北野さんがね、放課後にどうしても外せない用事があるらしくて。でも、今度なにかあったら変わるねって言ってくれたし。ありがとうって手も握ってくれたから。それでいいかな、って思ったんだ」
へへ、と彼女は笑う。私も同じく、そうなんだ、と笑みを返した。
嘘だと思った。北野さんの「外せない用事がある」という言い訳は。そして、今度は当番を変わるという約束も。
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