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金色の彼女 4
以前、北野さんが藤野香織とは別の子に、同じような理由で掃除当番の変更をお願いしていた場面を目撃したことがある。なかば無理矢理に頼みこむ、クラスの中心人物特有の強引さだった。
その後、教室を出て廊下を歩いていた私の横を「どこに遊びに行く?」とはしゃぎながら、友だちと通り過ぎていく北野さんの姿があった。それを見て、自分の生活を楽にするための悪気のない行為の犠牲になる人がいるんだな、と感じたものだった。
藤野香織も、おそらくはそのひとりなんだろうと思った。穏やかで、気のいい人。強い者の犠牲になる、か弱い人。
北野さんの本性を明かさずに、私は微笑んだままで言う。
「えらいね、香織は。やっぱり、優しいね」
それを彼女は、手を振って必死に否定した。
「ええ? そんなことないよお。普通だよ」
「ううん、優しいよ」上っ面の、私の態度。
「本当に優しい。私の友だちは、優しい人だなあ」
「もう、美香ちゃんってば。そんなこと言ったら、美香ちゃんだって優しいんだから」
そうして、ふふふ、と私たちは笑い合う。周りから見れば、友だち同士の仲むつまじい交流だと捉えられるはずだった。この関係は。
放課後。自宅まで、あと少しの帰路。友人関係の、私たち。
藤野香織は、優しい。いい子だ、とても。
だから私は、藤野香織を犠牲にしなくてはならない。
そのために、親しくなったのだから。
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