金色の彼女 6

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金色の彼女 6

 この数ヶ月間、心配と恐怖心から、病院での診察を幾度となく勧めたことがある。 「おばあちゃん、病気なの? 病院に行こう。私も、一緒に行くから」  しかしその度に、おばあちゃんは「病院に行って、治るものではないんだよ。もう、そういうことなんだ」と、どこか達観した表情で返すだけで、私の不安が消えてなくなることはなかった。  私には、両親がいない。二人とも、私が幼い頃に事故で亡くなっている。ずっと、おばあちゃんとふたり暮らしだった。  おばあちゃんは、たったひとりの大事な家族だ。この世にひとりだけの、大切な人だった。 「美香ちゃん。もし、私が駄目になった時はね」 ある日の夕食時、私の目を見ながら、おばあちゃんが伝えてきたことがある。 「信頼できる人に、美香ちゃんのことを頼んであるから。心配することはないよ。元気に、前を向いて生きていきなさい」  その言葉に、胸が急速に冷たくなるのを感じた。想像したくもない未来が形を作り、目の前に暗く現れた気がした。  ──おばあちゃんは、いつまでも元気だから、大丈夫だよ。  そう答えた私の声は、自分でも悲しいほどに震えていた。おばあちゃんがいなくなる。一緒に暮らすことが、できなくなる。絶望感と焦燥感に、心が黒く満たされる感覚に襲われたのを覚えている。  おばあちゃんは、偉大な人だ。  普通の人とは違う。ただの人間とは違う。偉大で、強くて、それでいて優しい、私の大好きな人だった。  前に、おばあちゃんが私を褒めてくれたことがある。  ──美香ちゃんには、才能があるね。将来は、おばあちゃんを越える優れた人になるかもしれないね。  そう言って、頭の上に手を置いてくれた。大きな手だった。  右手は血で赤く染まっていたから、左手でゆっくりと、大事そうに撫でてくれた。その温かさが、私の心に染み渡った。
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