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金色の彼女 9
(…………)
風に葉が擦れる音。頭上で鳴く、鳥の声。
それらが徐々に遠のいていき、私は藤野香織と一体化するような感覚を覚える。
藤野香織の体内に宿る、優しさのイメージ。
その一筋の光を手繰り寄せ、形にし、温かく甘い金色の物体を思い描く。汗が額をつたい、私の頬を流れ落ちていく。藤野香織の体のなかに、深く深く潜りこんでいく。自分というものがあやふやになり、周囲の状況も不明になり、ただただ私はおばあちゃんのことを祈りながら、金色のイメージを増幅させていった。
──そうして、両手と藤野香織の肉体を合わせてから、だいぶ時間が経過したと感じられた頃。
(…………!)
藤野香織の肉体が、淡く発光していることに気づいた。
両手に伝わるお腹の弾力も、先ほどまでより柔らかさを増しているのがわかった。
焦りそうになる気持ちを抑えながら、私はさらに強く念じていく。強く、強く。
徐々に、藤野香織の原型がなくなってきていた。長い髪の毛は体に吸収されたかのように消失し、顔の凹凸は薄くなり、五本の指は一本化して、腕は胴体にくっつきはじめていた。
藤野香織は彼女だった「もの」になりつつあり、ある段階で、お腹に当てていた指が簡単に埋まった。肉体は人から、おそらくは意思のない物質に変わっていた。
それを確認して、私は膝立ちだった姿勢から片膝立ちへと移り、藤野香織の上半身だった部分を折り曲げるために背中とシートの間に右手を差し入れた。藤野香織だった「もの」は持ち上げると簡単に折れ曲がり、下半身だった部分と合体させると、すぐに馴染んでひとつの塊になった。
手のひらを使って、形を整える。藤野香織だった物体はほんのりと温かく、表面が陶器のように白く滑らかになっていた。
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