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金色の彼女 1
「あの、美香ちゃん。具合でも、悪いの?」
考え事をしていた私に、隣を歩く藤野香織が言った。
「え?」
「いや、あの、なんだか静かだったから」
下校中。他に人のいない通学路。心配そうな声音。
視線を向けると、彼女は様子を窺うようにこちらを見ていた。長い黒髪が、風に揺れている。
きっと、学校を出てから会話が途切れがちになっていたのを不安に思ったのだろう。藤野香織には、そのような臆病なところがあった。
まだ飼い主に馴れていない子犬のような態度の彼女に、私は少し微笑みながら、言葉を返す。
「いや、違うよ。考え事してたんだ。ごめんね」
「そ、そうなんだ。それなら、いいんだけど」
「大丈夫だよ、そんなに心配しなくても。香織は心配性だね」
「へへ、ごめんね。美香ちゃん」
ホッ、と藤野香織は息をつく。下がり気味の眉が、彼女の気弱さを際立たせるように感じる。
会話を続けながら、私は考えた。
──もし、具合が悪いと答えていたら、心配するのかな。心配するんだろうな、すごく慌てて。だって、優しい人だから。
高校に入学してから、半年。藤野香織と友人関係になってから、三ヶ月ほどが経っていた。
藤野香織は、優しい。短い付き合いでも、彼女の穏やかな性格を私は十分に理解していた。
夏休みも一緒に過ごしたけれど、彼女への印象は変わらなかった。人をけなすことを知らない、繊細で、臆病で、温和な人。
私が感じた通りの、優しい人だった。
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