序章

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 無言の時が続き、車内に気まずい空気が流れる事、約数十分。  辿り着いたのは高級マンションが建ち並ぶ高級住宅地で、この辺りは『セレブ街』なんて呼ばれていたりする場所。  こんなところ一生無縁と思っていたけれど……私は今、その地に降り立った。  その中でも翅くんが車を停めたのは『億ション』と言われている地上五十階、地下一階の建物で、地下と一階が駐車場、二階にはロビー、カフェ、キッズスペースなどの共用施設があり、セキュリティの為に防犯カメラも沢山設置され、コンシェルジュカウンターまである。  そしてエントランスをはじめ、至る所に警備員が常駐しているので防犯面ではとにかく安心のようだ。  翅くんの後に続いてエレベーターに乗り、彼が部屋の階のあるボタンを押した瞬間、思わず声が出た。 「え!?」 「何だよ?」 「え、ご、五十階?」 「そうだけど?」 「翅くんのお部屋、最上階にあるの?」 「ああ」  だって、彼の部屋がまさか最上階にあるだなんて予想もしていなかったものだから、正直驚くのも無理は無いと思う。 (本当に、お金、あるんだ……)  何だか住む世界が違い過ぎて、戸惑いしか無い。  五十階に辿り着き、彼の部屋の前までやって来た。 「入って」 「……お、お邪魔します……」  電子キーを解錠した翅くんに促された私は中へ足を踏み入れると、オートセンサーが反応して辺り一帯に電気が点く。玄関からして広く、そしてまるでモデルルームのように綺麗な室内にただただ驚いた。  そして彼に続いて廊下を歩き、二十畳くらいありそうな広いリビングに着いた瞬間、ビックリしすぎて目を見開いてしまった。  だって、リビングには大きな窓があり、そこからは街が一望出来るのだから。 「うわー! すごい!!」  それは思わず声が漏れてしまう程、壮観だった。 「別に、大した事はねぇよ。住んでりゃ珍しくも何ともねぇ景色だ。それより、アンタの部屋はここな。俺の部屋はその隣。お前の荷物は今運ぶよう頼んでるから、(じき)に届くだろう。家具は好きに使ってくれて構わない」  こんなに素敵な部屋に住んでいるのに翅くんは終始冷めていて、何だかちょっと悲しい気持ちになる。  昔は小さな事にも喜んでいた翅くん。  彼はだいぶ変わっちゃったんだと改めて思い知らされた。
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