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《翅side》
(行ってらっしゃい……か)
実杏に見送られた俺はエレベーターに乗り込むとすぐに壁に寄り掛かる。
「……つーか、こんな再会の仕方……最悪だろ」
正直、俺は動揺していた。
まさかこんな形で、幼馴染みだった人に再会するんだから。
(だいぶ変わったな、実杏……)
昔からよく面倒を見てくれた、姉のような存在。
引越しをする事になった時は、もの凄く悲しかったのを覚えてる。
けど、あれ以来会う事も無かった。
当時の俺は小学生だったから、何も出来なかった。
いつか、大人になったら会いに行こうとあの頃は思っていたけど、俺の人生は落ちぶれたものだった。
両親の離婚の原因は互いの不倫。
俺は父親に付いて行ったけど、父親の再婚相手と馬が合わず、高校進学と同時にひとり暮らしをした。
そこからが、俺の人生の転落だったのかもしれない。
ひとり暮らしとあって当時つるんでた不良グループの溜まり場になり、昼夜問わず馬鹿騒ぎをしてた。
そのうち学校へも行かなくなって、毎日遊び歩いていた。
それでも、俺に負い目があった父親は仕送りを辞めなかったし、咎める事もしなかった。
それに甘えた俺はどんどん道を踏み外していった。
先輩たちに影響されて犯罪紛いの事もして来たし、女を取っかえ引っ変えして遊んでた。
二十歳になる頃には夜の仕事に就いて女に貢いでもらうようになって、容姿に恵まれていた俺の人生はイージーモードだと思っていた。
そんな時、ある人にスカウトされてホストから足を洗い、今に至る――。
エレベーターを出て車に乗り込んだタイミングでスマホのバイブが震え出す。
「――はい」
『おー、翅か? さっき人見から面白ぇ話聞いたんだが、お前女の借金肩代わりしたんだって?』
「ええ、まあ」
『へぇ? それはそうと、今何処にいんだ?』
「自宅マンションです」
『これからすぐ来れるか?』
「はい、そのつもりで向かう所です」
『そうか、ならいい。それじゃあ詳しい事は後で話すわ』
それだけ言って相手は一方的に電話を切った。
今の電話は俺が一番尊敬している人で、俺をスカウトしてくれた、覡組の三代目組長、覡 瑛一さん。
俺は今、極道の世界に身を置いている。
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