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5 多すぎる食事
『アレキサンドラお嬢様、お夕食の準備が整いました』
ノックの音と、声で目が覚めた。
「分かったわ、今から行くわ」
ベッドから起き上がり、大きな声で返事をすると辺りを見渡した。
すっかり日は落ち、部屋の中は薄暗い。窓の外を見れば、空は紫色に染まってチラホラ星が見えている。
「あらま……いつの間にか、こんな時間だったのね」
早速ベッドから降りると、自室を出てダイニングルームへ向かった――
****
「な、な、何ですか!? この料理は!」
ダイニングルームに入ると、仰天してしまった。テーブルの上には3人では食べきれない量の料理が乗っている。
しかもどれも、明らかに高カロリーの料理ばかりだ。
豚の丸焼きに、鳥の丸焼き。巨大な塊のローストビーフに、チーズがたっぷりかかった野菜のグリル焼き……。
パンはてんこ盛りに皿に乗っているし、甘そうなスイーツまで並べられている。
見ているだけでお腹いっぱいになってしまいそうだ。
「おや、来たな。アレキサンドラ」
「では早速頂きましょう」
父と母がフォークとナイフを手に取り……。
「ちょっと待って!!」
大声を上げて2人を止めた。
「うわぁっ!」
「キャアッ!!」
2人とも余程驚いたのか、肩をビクンとさせた。
「アンジェリカ、驚かさないでくれ。心臓に悪いではないか」
「どうしたの? そんな大きな声を出して」
「驚かせてしまったことは、お詫び致します。ですが、一言申し上げます。一体全体、何なのです? この料理は?」
「食べる為だが?」
「ええ。食べる為よ」
私の問に、父も母も当然のように答える。
「何を仰っているのです? 夕食にこれほどの高カロリーな食事を大量に摂取するなんてとんでもないことです! 大体、お父様とお母様のその細い身体で、食べ切れると思っているのですか!?」
「それは、確かに難しいが……」
「でも、食べなければ太れないわ」
「太る必要がどこにあるというのです!!」
「「ええっ!?」
私の言葉は余程、衝撃的だったのか2人は同時に声をあげる。
「だ、だけど……世間では太っていることが美しいとされているし、私達はお前の為にこの料理を用意したのだよ?」
「今から太れば、殿下だってあなたを婚約者として認めてくれるはずよ?
「私の為にですか? だったら尚更こんな食事は不要です! あんなデブ男が婚約者なんて、こちらから願い下げしたいくらいですから!!」
ついに、両親の前で自分の本音をぶちまけた。
二人は言葉も無くすほどに驚いているのか、呆然とした眼差しで私を見つめている。
「いいですか? お二人は、本当に太っている姿が美しいと思っているのですか? パンパンに太った身体。 顔と首の境目がなく、脂ぎって、テカテカに光っている顔。少し動いただけで汗ばみ、臭ってくる体臭……これらが本当に美しいと思っているのですか!?」
「「う……」」
父と母が顔をしかめる。
恐らく私の言葉を想像して、気分が悪くなったのかもしれない。
「それに肥満は様々な病気を引き起こします。心臓病や、高血圧、糖尿病……どうです? 貴族の方々は身体も弱いし、短命な人々が多いですよね?」
「確かに、そうだな」
「そうね……言われてみればそのとおりだわ」
ようやく、両親は気づいたようだ。
「分かりましたか? 肥満は身体にとって、良いことは一つもないのです! 世間がどう言おうと、私達、ノルン公爵家は理想の体型をしているということです! よって、これらの料理は頂いてはいけません! 私がこれから今夜食べても良い料理をこの中から選ばせていただきます!」
私は両親にきっぱり言い切った――
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