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6 王宮からの使い
「ふ〜……とてもつかれた夕食だったわ」
結局あの後、あれもこれもと料理を取り除き、低カロリーな魚介料理に胚芽パン。
サラダにスープ、デザートにゼリーをチョイスして残りは全て厨房に戻してもらうことにした。
きっと、今頃使用人達は喜んで食事を頂いていることだろう。
「あんまり食べていないけど、もうお腹が一杯だわ」
私は自分のお腹を撫でるとベッドに横になった。
アレキサンドラは細い上に、胃も小さいのだろう。あれだけしか食べていないのに、もうお腹が苦しいのだから。
「それにしても、あの男……デブのくせに許せないわ」
今日のパーティーのことを思い出し、怒りがこみ上げてくる。
いや、一番腹立たしいのは自分だ。
まさか、あんなデブに縋り付いて泣いていたとは……。
「元スポーツインストラクターの私が、あんなデブ男に恋していたなんて……自分で自分が許せないわ!」
もはや、殿下とも呼びたくない。あんな男の呼び名はデブ、一択のみだ。
「はぁ〜……いやだなぁ……あんなデブが婚約者だなんて……いっそ、向こうの方から婚約破棄してくれないかなぁ……」
私は公族、そして相手は王族。どう考えたって、身分の低い私の方から婚約破棄なんて出来ないだろう。
向こうだって私のことを嫌っているのだから、さっさと婚約破棄してくれないだろうか?
それで昨日一緒にいた……シェリーだかシリルだか、そんな名前だったデブ女と婚約して結婚でも何でもしてくれればいいのに……。
そんなことを考えながら、私はいつの間にか眠りに就いていた――
****
――翌朝
自室で野菜たっぷりのサンドイッチに、野菜スープというヘルシー料理を食べているときのことだった。
「アレキサンドラ様、お食事中に申し訳ございません」
突然フットマンがダイニングルームに現れた。……当然働いている使用人達は全員スリムな体型をしている。
ノルン公爵家は例外だが、肥え太っているのは貴族達のみだ。
「何かしら?」
食事の手を止めてフットマンに尋ねた。
「はい、実はベリル王家から使いの方がお越しになっておられまして……王太子殿下の伝言を承っているそうなのです。ただいま、応接室でお待ちです」
「え? あの白豚から?」
思わず心の声がそのまま口に出てしまった。
「し、白豚!?」
私の言葉に驚いたのか、フットマンが目を見開く。
「い、いえ。何でもないわ。王宮の使いの方なら、お待たせするわけにはいかないわね。直ぐに行くわ」
行儀が悪いかもしれないが、残りのサンドイッチを急いで頬張り、フットマンの案内で応接室へ向かった。
一体、あのデブ男が私にどんな用事があるのだろう?
だがこんな朝早くから使いを寄越すのだから、どうせろくでもな話では無いだろう。
それにあの白豚の使いなら、訪れてきた人物も恐らく肥え太った巨体だろう。
「はぁ〜……気が重いわ」
「あの、アレキサンドラ様……大丈夫ですか?」
私があまりため息ばかりつくものだから、前を歩くフットマンが心配そうに時折チラチラ私に視線を送っている。
「……こちらで、使いの方はお待ちになっております」
フットマンが部屋の前で足を止めた。
「ありがとう、もう下がっていいわ」
「はい」
会釈するとフットマンは去っていき……憂鬱な気持ちで応接室に足を踏み入れた――
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