前編 とある喫茶店の看板猫タキ

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前編 とある喫茶店の看板猫タキ

〖 当店にドレスコードはありません 〗  私の住んでいる街の喫茶店の入り口に張られている紙に書かれている文字である。  何故、こんな張り紙が張られているかと云うと……  カラーン ♬ 「ニャァ~ン 」  タキシード柄の猫タキちゃんとタキシードを着たイケメンのおじ様マスターが迎えてくれる。  タキちゃんは喫茶店の看板猫らしく堂々としていて人見知りをしない猫ちゃん。  同じ商店街のお惣菜屋さんの猫であるコロッケとアイリーンの子供だとマスターに教えてもらった。  父猫のコロッケは普通の茶トラだけど母猫のアイリーンはメインクーンと云う大型の猫ちゃん。  メークインはじゃがいも、だから間違わないでね……私は間違えた。 〖本日の紅茶 ………… 800円 〗  どんな紅茶かは、マスターのお任せである。  コポコポとお湯が沸く音がする。  あのブラック会社を辞めて良かった。  高校を卒業して勤めた会社がブラックだったことに気がついたのは、30日連勤した後の休みだった。  久しぶりの休みで起きたら夕方であり、フラフラと商店街に買い物に来た時に出逢った喫茶店。  いつの間に出来たのだろう、気がつかなかった。  働き出して3年、朝は6時に出社して帰りは終電、間に合わないと会社にお泊まり。  お休みは月に1回、お給料は手取りで10万円を切ることも多かった。 「お待たせいたしました。  ごゆっくりお過ごしください 」 ベテラン執事のようなマスターは静かにカウンターに戻っていった。  可愛いティーセットに付いてくるケーキ  ポットには二杯分の紅茶が入っている。  トポトポとティーカップに紅茶を注ぐ。  今日の紅茶は、アールグレイ……レモンみたいな香りがして渋くて重いのに爽やかで美味しい。  セットのお菓子はチョコケーキ……カロリー爆弾だ。 「美味しい……」  思わず声が出ると、 「ウニャァーン !」  当然だ、と言うようにタキちゃんが鳴いた。  私が紅茶を飲む間、接待するように側に居て見守ってくれているようだ。  チョコケーキとアールグレイが、こんなに相性が良いなんて知らなかった。  初めて、この喫茶店に入り社畜から人間に戻った私はブラック会社を辞める決心をした。  退職代行を使ったおかげで無事にブラック会社を辞めた私は人間の生活を取り戻すことに成功した。  言わば、この喫茶店とタキシード猫のタキちゃんは命の恩人なワケでホワイト企業に勤めた今は、すっかりこの喫茶店の常連客に成ったと思う。  タキシード猫タキちゃんに癒され、紅茶に癒される。  明日から、また頑張るぞ !  タキちゃんを撫でながら誓う私が居た。
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