第1話

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 忘れようとして、自分の気持ちに蓋をして。  あいつと過ごした中学3年間、全部無かったことにしたかった。  あいつの存在さえも、自分の気持ちも全部……俺は、忘れようとしていた。  ーーー高校1年、4月。   「白川! ……白川、待てよ!」  放課後。帰ろうと教室を出たら、聞き慣れた声に呼び止められた。 「門田(かどた)久しぶり」  振り返ったら、友人である門田雅文(まさふみ)が呆れたような表情を浮かべていた。中学からの付き合いのこの友人の顔も、久しぶりに見た気がする。  入学初日にクラスメイトと喧嘩して、10日間停学を食らっていたからだ。 「……停学から復帰したと思ったら早速遅刻して、授業サボってどこいたんだよ」  ゾロゾロと教室から出てくる生徒達が、俺と門田を避けて通って行く。そんな中、俺は門田と廊下の隅で話をする。 「教室いても居心地わりーから抜けてたんだよ」  10日前の入学式で、同じクラスの高井という男と教室で殴り合いになったのだ。高井も何かと処分を受けたと思うけど、今日高井の姿はなかった。  もしかしたら高井は学校を辞めたのかもしれない。 「高校では落ち着くって言ってたろ」  そう、中学では悪いことばかりしてきたから……高校は普通に過ごそうって、あいつと決めたんだった。 「……」 「そんなことしてたら、南も心配す……」 「門田、その名前、出さない約束だろ」  呆れ顔の門田にそう言ったら、門田は口を紡いだ後、しばらくして「悪い」と申し訳なさそうに言った。  小さくため息をついて、俺は廊下を歩き出す。そしたら門田も、俺の後をついてきた。  この男、門田とは中学3年の時に同じクラスになり、知り合った。  中学の時から俺らが悪いことをしようとすると止めに入ったり、ブレーキ役の存在だった。俺達と少しノリは違ったけれど、どうしてか門田のことは憎めなくて……  3人で、いつも一緒にいた。  ……………。 「……それより、停学中暇すぎて……俺もバイトしようかな」 「全然反省してねーじゃん」  さらに呆れ顔の門田を横目に、俺は何も言わずに下を向く。 「………」  ーー直樹がいて、同じ学校に通ってたら……あいつは停学になった俺を見てなんて言ってただろう。
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