のびる魔法の使用が発覚

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「放課後ちょっと魔法準備室まで来いよ」  斉藤先生にそう呼び出された時点でいい予感はしていなかったんだよな。 「なんですか。話って」 「おう座れ」  準備室の扉を開けると、男子ハンドボール部顧問であり魔法物理の教師でもある斉藤先生が、事務椅子をきいっと鳴らしてこちらを向いた。他の教室同様、魔法準備室も先週の文化祭で使われた装飾が残っていて無駄に賑やかだ。  賑やかなままの机で小テストの丸つけをしていた斉藤先生が言う。 「文化祭で、お前らバスケ部は手作りポテトチップスの店出しただろ」 「あ、はい。おかげさまで売れました」  文化祭はとっても盛り上がった。  野球部の出店した唐揚げ、女子テニス部のパフェが売り上げトップを競っていたかな。他にも陸上部と水泳部と空中部がコラボした「陸海空コラボピザ(野菜・シーフード・チキンピザ)」とかも話題だったし、オカルト研究部の今年のお化け屋敷は県内に伝わる怪奇伝説を取り入れたのが怖すぎてトラウマ続出だった。三年二組の劇タイタニックは涙無しでは見れなくて、たまたま隣で出店してた手芸部のハンドタオルがバカ売れした。  我らがバスケ部のポテトチップスも『ついつい手がのびる! やみつきの美味しさ』ってキャッチコピーで上々の売り上げだった。 「お前ら、あのポテトチップスに”のびる魔法”かけただろ」 「げ。バレましたか」 「げ、じゃねえぞ。『校内で金銭が絡むものに魔法を使ってはならない』って校則にあるだろ。何が『ついつい手がのびる!』だ」  単刀直入すぎて素直に即答してしまった。バレるほどじゃないと思ったんだけどなあ。 「ちょっとしたスパイス程度だったんですけど」  様子を窺いつつ聞く。 「あれ食べて三組の鈴木は背も伸びたぞ。五ミリ」 「えっ三組で背の順がギリギリ前から二番目の鈴木が。……いや、それは『バスケ部秘蔵のカルシウム入り』ってのが効いたんじゃないですかね」 「そういう予防線を張ったのもセコいぞ」 「すんません」  余計なことを言うとお説教が延びるので素直に謝る。 「あと校長もあれ食べた後だったから、文化祭閉会式の校長のお話が延びた」 「校長のお話が長かったのは俺らのせい!」  俺は頭を抱える。全校生徒の皆さんごめん。いつもより長いと思ったんだよ。つーか校長は閉会式の直前まで何ポテトチップス食ってんですか。 「そもそも魔法ってのはな」  頭を抱える俺に斉藤先生が言った。俺は大人しく聞く姿勢になる。斉藤先生が「そもそも」って言ったら話が延びる合図だ。授業中に「そもそも」が出たら話は宇宙まで行くし、お説教で「そもそも」が出れば 「魔法ってのはもっと慎重にならないといけないんだよ。たとえ”のびる魔法”程度であってもな」 「はあ。すんません」 「お前らバスケ部だって、試合で”のびる魔法”の使用が発覚したら、魔法ドーピングに引っかかるだろ」 「でも、ポテトチップスにはすぐ効果消えるくらいしかかけてませんよ」 「おう。おかげで閉会式後の職員会議では校長の話がやけに短かった」 「職員だけ得して」 「あと鈴木の身長も縮んだよ。七ミリ」 「二ミリ余計に」 「三組の背の順で一番前になったとショック受けてた」 「鈴木マジごめん」 「だから魔法ってのは慎重にならないといけないんだよ」 「縮むのはちょっとわかりませんけど」  なんか勢いで余計に謝ってしまったような。 「でもなんでわかったんですか? 鈴木の身長はともかくとして」  バレてしまったものは仕方ないので、俺からも聞いてみる。 「魔法指導部担当をなめるなよ」 「すんません」 「そもそも魔法が発生すると、空間を波長になって進むって習ったよな」 「あ、魔法物理の授業始まっちゃう感じですか」  本日二回目の斉藤先生の「そもそも」である。 「この宇宙空間は膨張しているってのも習ったよな」  俺の返事を無視して先生が話し始める。 「ある場所から発生した魔法の波長は、別の観測者に届くまでの間に宇宙空間が膨張した分だけ波長が伸びる。魔法波スペクトル線の波長λ0がλ1として観測された場合、その伸びΔλとλ0の比が魔法波赤方偏移のパラメーターとして定義されるから、このパラメーターが魔法発生場所からこの魔法準備室までの距離として測ることができるんだ」 「測ることができるんですか」 「まあそれはバスケ部の部室がある部室棟と魔法指導部のある西校舎との渡り廊下の距離が百三十八億光年くらい伸びていればの話だけど」 「渡り廊下は十五メートルくらいですね」 「だいたい、なんでわざわざ魔法使ってまで売ったんだ」  先生が改めて俺に聞いた。いやーそうなんすけどね。はぐらかそうかどうか迷って、俺は頭をぽりぽりやってから言った。 「試合の遠征費にしたかったんですよ。少しでも売り上げ増やして」  俺らの学校のような片田舎だと、試合に出向くだけでも大変だ。せっかく勝ち進んでも翌日の試合に出るためにはホテルに一泊するか、重い荷物を持ってまた早朝から電車に乗るかしないといけない。 「魔法ってのはなあ、そういうことに使うものじゃない」 「わかってます」  ガタイの良い腕を組んで、先生が俺を見る。並んで座っているだけのはずなのに見下ろされてる気分になる。 「そもそもお前らの手作りポテトチップスは良かったんだぞ。のり塩とBBQソースとガーリックって味の種類変えて、それに合わせてパッケージも変えて、揚げたてのいい匂いで客寄せしたり、おやつ時を狙って宣伝したり、なかなか商売上手だった」 「ほんと、必死だったんで」 「それもこれも部活のためだろ」 「はい」 「それならどんなことだってスポーツマンシップでやるんだ。目標のために無理そうに思えるところまで必死に手を伸ばして、そうやって初めて自分が一回り大きくなるんだよ。それは何もバスケのテクニックだけの話じゃない。手の届くところばっかりでやって届かないところを魔法に頼ってたら、大きくなんてなれないだろ」  放課後の魔法準備室に斎藤先生の声が響いた。 「で、魔法使用が発覚した理由はな」  ついでみたいに斉藤先生が言った。 「はい」 「校長も食べたって言ったけど」 「まさか校長が気づいたんですか」 「いや、校長室にある日本人形の髪が伸びたんだよ」 「オカルト研究部の出番じゃないですか」 「魔法だよ。お前らの」 「すんません」 「校長がめっちゃ怖がってるから白状してきなさい」 「すんませんでした」
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