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「君は、髪を伸ばしたいって願ったの?」
そう訊くと、彼女は視線をキッとこちらに向けた。蛇に睨まれた蛙のように縮こまってガクブルしていた神様が、逸れた視線に少しだけほっとした顔をする。
「そうよ! 髪をすぐに伸ばしたかったから」
「ちなみにいつから?」
「20日前。それからずっと、毎日毎日12センチ伸びているの。この3週間弱の間に、すでにロングノヘアドネ4回もしているのに、全然追いつかない!」
「ヘアドネ?」
足長少年が、不思議そうな声で言うと、今度は視線を彼に向けて、
「ヘアドネーション。病気で髪を失った人のウィッグにするの。長さ50センチ以上だと、数が少ないし特に歓迎されるの」
と、説明した。
「すごい! 社会貢献じゃん!」
心底感心したように言う少年に、少女は呆れたように、
「ま、そりゃ、人の助けになるにはなるけどさ。でも、こっちはたまったもんじゃないわ、毎日こんなに髪が伸びたら。毛量多いから、伸びてもサラサラにならなくて爆発的に広がるし、周りからはリアル呪いのお菊人形とか言われるし、先輩にもドン引きされるし」
「先輩って?」
「バレー部の先輩。サラサラロングヘアの子っていいよな、って言っていて…」
最後のほうは頬を赤らめてごにょごにょ言うのを、
「つまり、好きな男の好みに合わせたいという乙女心じゃ。サラサラとはほど遠くなったが」
と、したり顔で神様が相手を逆なでする台詞を吐き、案の定、
「黙れ! お前のせいだぞ、ざけんな!」
という一喝と拳固を喰らっていた。
「わ、我、神ぞ! その神に向かって…」
「こっちはいい加減苛ついているんだ、とっとともとに戻しやがれ!」
いきなり柄が悪くなった少女を、俺たちはただ唖然として見ていた。
「あ、あ、失礼、つい」
俺たちのドン引きした様子に、少女は我に返って再び赤面した。
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