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まずはご説明を、という“お師匠様”を囲んで車座になり、俺たちは話を聞くことにした。
「ねえ、この子が神ってことは、あんたも神なの?」
少女の問いに、青年は、そもそもそこなんですが、と言った。
「こやつは、神ではありません」
「は? マジ? じゃあ、なんなの? あんたは神なの?」
「俺たちを騙したのか? でも、足は確かに伸びたよな?」
口々に言う2人を、まあまあ、と宥めて落ち着かせて再び説明に戻った。
「神ではありませんが、いわば、見習いですね」
「見習い。それでこの不手際」
皆の視線を受けて、神様改め神様見習いは、小さい体をさらに小さく縮めた。
「神様が見習いってどういうこと?」
少年の質問に、お師匠様は深く頷き、
「わかりやすく喩えますと、神は超一流の数学者のようなものです」
と言った。
「え? 数学者?」
どの辺がわかりやすいんだ、その喩え、そう思ったとき、傍らの少女が、
「あ、わかる。数学ができる人って、神だよね」
と言った。いや確かに、理数系得意な奴って神って思ったことはあるけれども。そういう意味じゃないよな。そう思ったが、“お師匠様”は、少女ににこやかに微笑みかけて言った。
「そうなんです。ですが、どんなに優れた天才的な数学者も、最初は数を学び数え方を学び、足し算引き算を学んでいったんですよ。それがだんだん高度化していくわけです」
「じゃあ、こいつは」
「ええ、小学校1年といったところですね。やっと足し算を覚えた」
「引き算は習ってないってことか。だから、伸ばせても減らせないのか」
足が長いと体育座りも正座も一苦労なのか、しょっちゅう姿勢を変えていた足長少年が納得の表情で言う。これもまたなんか違う気もするが、この言葉にも青年はただにこやかに頷いた。
「まずは、いわばこの足し算の力を身に着け、試験を受け、合格したらさらに次のステップになります。そうして1つずつ、力を付けて行くんです。こやつ、もうすぐ試験なので実践でいろいろ自信を付けようとしたんでしょう」
「実験台だったのか」
俺は嘆息した。なんてことだ、そんな理由で眉毛を伸ばされて、貴重な勉強時間が今まさに大幅に削られているってことか。これで受験に失敗したら、どうしてくれるんだ。そう思ったら、”お師匠様”が、
「だいじょうぶです。毎日たゆまず努力をすれば、この一件は影響しません」
と言った。
つまり、受験に失敗してもこの一件は無関係ということか。厳しい…。
「まあ、いずれにせよ、お師匠様は少なくとも小学生レベルじゃあないわけよね? 私たちの被害をどうにかしてくれない?」
「僕も、お願いします!」
そんな2人に、お師匠様は穏やかな眼を向け、もちろん、すべて元に戻します、と宣言し、あ、でも、最初の2日分はそのままで、改めてそう言い募る少年少女の言葉はスルーして、上げた手を、ふわ、と軽く振り下ろした。
「「「あ!!」」」
俺たち3人の声が部屋に響く。
眉毛に遮られていた俺の視界はクリアになり、少女の髪はボーイッシュなショートカットになり、少年は一気に背が小さくなった。
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