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1ー2 人の子
血の匂いが濃くなる。
どこからか人の争う音がきこえてきてわたしは、足を止めた。
きぃん、という金属の音がきこえ、人間たちの争っている様子がわかった。どうやら、まだ、人の子は、生きているようだ。
めんどくさい。
わたしは、まだ、獲物を殺したことがない。そろそろ父様は、わたしにも狩りを教えようとしているが、まだ命を奪うことはさせてはいなかった。
ようするにわたしは、子供扱いされているのだ。それが、わたしは、堪らなく嫌だった。
わたしだって、もう、一人前の獣だ。
一番に駆けつけて人の子の命を奪い、その血肉を味わう。そうすれば、誰ももう、わたしを子供とは思わない。
わたしは、気配を消して近づいていった。
打ち合う金属の音がきこえ、いくつかの人影が争っているのがわかった。
どうやら人間同士で争っているようだ。
わたしは、焦っていた。
このまま決着がつくのを待っていると父様や兄様たちがきてしまう。そうしたらまた、わたしは、大人になることを妨げられてしまうだろう。
わたしは、意を決して争いの場に姿を現すことにした。
気を発しながら現れたわたしを見てその場のすべての人間たちが動きを止めた。
「ふぇ、フェンリル!」
「逃げろ!」
地に倒れている者たちを襲っていたらしい人間たちが慌てて逃げていくのを見届けるとわたしは、地に伏している人の子へと歩みよった。
何人かの死骸が転がっていたが、中にはまだ息のある者もいた。
わたしは、息のある者の中でも一番小さな者へと近づいていった。
獲物は幼い方が扱いやすい。
わたしは、近づいてその人の子を見た。
藍色の髪に藍色の瞳。
初めて見る人の子は、あまりにも美しくてわたしは、それを殺して食らうことをためらってしまった。
人の子は、怯えた眼差しでわたしを見上げていた。
それは、まるで赤子のような心細さでわたしは、動揺してしまった。
わたしには、この人の子を殺すことはできない。
震えるその人間をわたしは、咥えると自分の背に乗せ森の外へと運んだ。
わたしがその人の子を運んでいるのを他の人間たちは、遠巻きにしてついてきた。
安全なところまで行くとわたしは、人の子を下ろして離れると背を向けて森へと戻った。
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