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1ー7 大黒蜥蜴
数日後のことだった。
わたしが1匹で森の人間側の外れをうろついていたときのことだった。その辺りには、すごく美味しいキノコがはえる木が群生していてわたしは、それを食べにきていたのだ。
さすがに肉を食べずにいることも限界で、わたしは、よろよろになっていた。今のわたしにもキノコなら食べられる。
ちなみにフェンリルがキノコを食べることはあまりない。たまに胃の調子が悪いときに食べるぐらいだ。
わたしは、母様たちが心配しないように誰にも内緒でキノコを食べにきていた。
苔のはえた木陰に色とりどりのキノコを見つけてわたしは、無我夢中でキノコをがふがふと食べた。
「キノコを食べるフェンリル、か・・」
背後で声がしてわたしが振り向くとそこには巨大な黒い影がいた。
大黒蜥蜴だ。
わたしは、飛び退くとぐるる、と低い唸り声をたてた。
なんでこんなところに大黒蜥蜴が?
わたしは、牙を剥いて大黒蜥蜴に対峙した。
「やめときな、お嬢ちゃん」
その大黒蜥蜴がわたしに声をかけた。
「いくらわしがもう長くないといってもお嬢ちゃんぐらい殺すのは簡単だ」
わたしは、唸るのをやめてじっとその大黒蜥蜴を見た。
彼は、年老いていて、しかも全身に傷を負っていた。黒い立派な鱗に覆われた体からは、青い血が流れている。おそらく彼が言うようにもう放っておいても死んでしまうことだろう。
わたしは、一瞬、祠のばばのことを思い出していた。
もしかしたら数日中に『女神の涙』を手に入れることができるかもしれない。
そう、わたしが思ったとき大黒蜥蜴が呻き声をあげた。
「お嬢ちゃん、『女神の涙』が欲しいのか?」
その年老いた大黒蜥蜴に問われてわたしは、恥ずかしさに顔を伏せた。
誇り高いフェンリルが死んでいく老いた獣の体に、それも死体に牙をかけようだなんて。
恥ずかしさにわたしは、涙ぐんでいた。
「そんなに恥と思うことはないさ」
老いた大黒蜥蜴は、わたしに話した。
「どうせわしは、もう死ぬのだからな。欲しければくれてやってもいいさ。だが、なぜ、それが欲しいのかだけは教えてくれないか?」
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