1 よくある話?

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1 よくある話?

 1ー1 冬の終わり  わたしは、森の中を走っていた。  精霊たちが騒いでいる。  森のどこかに愚かな人間が入り込んだのだ。  わたしは、走りながら匂いを確かめた。  血の匂い。  おそらく人間は、もう生きてはいないだろう。わたしは、そのことにホッとしていた。   フェンリルの一族の中でまだ人の肉を食べていないのは、私だけだ。  父様は、いつもみなに話している。  「人の血の味を知ってこそ魔物の王たるものになれるのだ」  だから、わたしは、ずっと待ち続けていた。いつか、人の子がこの森に入り込んでくることを。  そうすれば、わたしも人の血を味わい、魔物の王の一族として一人前として認められるのだ。  父様は、わたしが森を出て狩りをすることを許さない。人の世界で狩りをすることは、危険だからだ。わたしは、一族の中でも一番幼く、まだ無力だから。  でも、人の子もバカばかりではない。森は、危険だと知っていて近づこうとはしない。だから、わたしは、待つしかなかった。  森は、まだ暗くて朝は、遠い。  この森は、魔物がすみかにしている森だ。例えフェンリルであっても危険な場所だ。でも、走っているわたしにちょっかいをかけてくる物は誰もいない。  この森の王の娘であるわたしに手をだしてくるようなバカはこの森で生きてはいけない。  わたしは、森の王、フェンリルの娘。  父様からは、9番目の娘、クオと呼ばれている。母様似のわたしは、父様から特に可愛がられていた。  このまま血の味など知らぬ無垢な存在でいたいと思わないわけでもない。  だが、わたしは、はやく大人になりたかった。大人になれば森を広げるための戦いにも参加できるようになる。  わたしは、みなの役にたちたい。  それに、世界を理解しない愚かな人間たちの手からこの世界を守ることは、我々の女神から与えられた使命だ。  わたしは、走りながら頭を振った。  もう、いい。  どちらにしても、わたしは、朝がくるまでには一人前のフェンリルとなる。  わたしは、走る速度を速めた。  急がなくては!  銀色の毛並みが風に靡いているのが心地よい。  冬の終わりの頃は、空気が爽やかだからわたしは、好きだ。  この季節に大人になれるのが嬉しかった。  
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