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杉原に問われた。心花視で見た最高の光景。
幸樹には一つしか浮かばない。
物心がついているかどうかすら怪しい幼少期だというのに今でも明瞭に思い出せる。
だからそれは、幸樹の生きる指針になっている。
幸樹にとって母は気難しい人だった。父は大らかな人で、だからある意味でバランスの取れた夫婦だ。
二人の間に生まれた幸樹は察しの良い子供だった。両親が落ち込んでいる時に寄り添い、満ち足りている時にしっかりと甘える。タイミングを間違えない幸樹少年。
そんな幸樹少年はその日、母親を労わり、いつものように褒められた。
「幸樹は気が利くね、お利口だね」
母親に幸樹少年は言葉を返した。
「ママのお花が元気なかったから」
その日を境にだった。
母親の心は枯れていった。
幼心に少年は理解した。言ってはいけないことを言ったのだと。母親の心を枯らしたのは自分の言葉だと。
当時、母親が怯えた目で我が子を見るようになったこと、視界に移ることを忌避していたこと、心花視の検査は受けさせないと態度と反するように認めまいとしたこと。
親戚の伯父さんが悪気もなく丁寧に物心付いた幸樹少年に教えてくれた。
そんなことがあったから、必然だったのかもしれない。
母親は入院をするまでに至り、幸樹少年は母親と会う機会を無くした。
一年が過ぎ、二年が過ぎ、幸樹少年は鈍感で花が嫌いな少年に育った。
人の心の機微と逆行するような少年に、心を覗き見る力なんて宿っているようには誰にも見えなかった。
そうして子供特有の勘の良さは、心花視とは別にありうるものだとして、ついに結論づけられる。
その果てにようやく、母親に復調の兆しが見え始めた。
久方ぶりの母親との再会。その瞬間、脳裏に映し出されたものを幸樹少年は決して忘れない。
やつれた顔を綻ばせた母親の心が、小さく芽吹いたその瞬間を。
それから幸樹少年は、母に芽吹いたその芽を二度と枯らさないように、生きてきた。機微に疎いだけではダメだった。未だ不安定な母親の小さな綻びを見逃さないように、忌避された心花視を使ってでも母の心を守り抜く覚悟と共に。
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