0人が本棚に入れています
本棚に追加
「心花視を通して見た最高の光景だったよな?」
期待した表情で杉原が頷きを返す。
「心が芽吹き、緑に、花に溢れていく様だよ」
「素晴らしいですね。花菱さんを選んで間違いはなかったです!」
興奮気味に杉原が応じる。
「私が声をおかけしたのは、花菱さんが心花視を持っているからではないんです」
「じゃあ--」
何で、と言う問いは言葉にならなかった。杉原が被せるように答えていた。
「あなたの心があなたの望みを現していると思ったからです」
教えて頂いたので私もお答えしますね、と杉原が言う。
「花菱さんの心は、強く根が張っている割に草木の成長が未熟です。荒野に一本細い芽が伸びている最中、と言う感じでしょうか」
言われた光景を脳裏に浮かべ、幸樹はそれが母親の心と重なると気づく。
母だけでなく、きっと自分も心を枯らしてしまったのだろう。それでも再び芽を伸ばし心が豊かになっていくのだとしたら、枯れてしまった他の人の心にも寄り添い育むことができたなら、それは素晴らしいことなのではと考えられる。
これが杉原の言っていた望みか、と幸樹は思い至った。
「ありがとう」
彼女との関わりが無ければ、きっと考えもしなかっただろう。己の心の形を知ることもなかった。
だから、と神妙に礼を言う幸樹。
しかし杉原はお構いなしだった。
「いいんですよ。それでですね、私は心が大きく伸びて育つ様が見たいんです。その過程には花菱さんの望みも含まれるはずです。私たちは協力し合うことが出来ます」
感謝すら一瞬で霧散する。
薄々と感づいていたことだが、幸樹はここに至って確信した。
やっかいな女に目を付けられた。
「花菱さん、一緒に世界を花で満たしましょうね」
最初のコメントを投稿しよう!